日本の経済安全保障「金融」巡る重要な3つの観点 インフラ金融、通貨、金融制裁をめぐる攻防

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一帯一路の改革と西側の対応

中国も「一帯一路」への批判を深刻に受け止めている。2019年4月の第2回「一帯一路」国際フォーラムでは、環境配慮、汚職防止、債務持続性配慮など「一帯一路」の質を向上させることが謳われた。その半年前の2018年10月には、日本の政府系金融機関である国際協力銀行は、「一帯一路」向け融資を積極的に行う中国国家開発銀行と覚書を締結し、開放性、透明性、経済性、財政健全性といったグローバルスタンダードの順守が重要であると確認した。

中国の経常収支黒字も一時に比べて減少する中、「一帯一路」の新規金額規模は縮小しているが、習近平主席の威信と結びつき共産党規約にも規定される「一帯一路」を中国が放棄する可能性は低い。今後の「一帯一路」が改善された形で運用されるのであれば望ましいが、中国の実際の行動を確認していく必要がある。

日本はこれまでインフラ金融に関して長い歴史を有し、2016年の「質の高いインフラ投資推進のためのG7伊勢志摩原則」の取りまとめを含めてインフラ金融の世界をリードしてきた。アメリカも、「一帯一路」に対抗する観点から2019年末にアメリカ国際開発金融公社(DFC)を発足させるなど、インフラ金融に力を入れ始めている。

また、日米豪で協力してパラオの海底ケーブルを支援するなど、「一帯一路」の代替オプションを提示する動きも進んでいる。日本は同志国と協力しつつ、経済性、債務持続性、環境などに配慮した質の高いインフラに向けて引き続き取り組むとともに、必要に応じ受入国のガバナンス強化の能力構築支援を行うことも重要だ。

また、スピードアップを含めて受入国から見た利便性を高める努力も続けていくのが望ましい。さらに、気候変動への対応として低炭素プロジェクトや移行(Transition)プロジェクトの支援に力を入れることも重要だ。

CBDC導入に向けた動き

中国は2015年に公表した「一帯一路:ビジョンと行動」で、周辺国による人民元債の発行など人民元の利用拡大の方策も記載している。他方、2021年1月にアメリカ元政府高官が匿名で発表し話題となった対中戦略「より長い電報」では、アメリカの戦略が「軍事」「技術」「価値」そして「米ドル」という4つ強みに支えられていると指摘、基軸通貨ドルの地位の維持を重要な戦略目標と強調する。

こうした中、中国は中央銀行デジタル通貨(CBDC)であるデジタル人民元の導入準備を進めている。中国が有利なのは、アリペイ、ウィーチャットペイなどの民間デジタル通貨が浸透し、人々の間でデジタル通貨への抵抗感がないことだ。

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