取り締まる側も、抗議してくる違反者との議論は避けたいところだ。ただでさえコロナ禍の長期化でストレスがたまっているところに強制力のある取り締まりを強行すれば、市民の怒りが爆発するかもしれない。そのことを考えれば、相手を怒らせたくないために検査を怠る気持ちもわかる。
フランスでは今年に入り、衛生パスをワクチンパスに切り替える実質ワクチン未接種者の社会からの排除を支持する野党・中道右派アニエス・フィルマン・ル・ボードー議員に殺害予告のメールが送られ、彼女はそのメールをツイッターで公表した。予防措置強化を推進する議員への脅迫は、彼女一人ではない。
筆者は感染症の専門家ではないが、新型コロナの感染拡大が人間の行動様式が大きな影響を与えるのは理解できる。マスク着用の慣習のなかった欧州人にはマスク着用でさえ、ハードルが高い。あいさつのキスやハグが当たり前の欧州ではその習慣を変えるのも難しい。リモートワークでは職場のおしゃべりもできないので、社員のモチベーションが上がらないといって導入していない会社も少なくない。
強制に対する国民の抵抗感も強い
政府は強制力を持つ規制を施行できるが、政府の強制への抵抗感も日本の比ではない。個人の自由の権利が保障される民主主義の発祥の地であるイギリスでは、個人の選択や権利は最優先に守られるべきと考えられている。ロックダウン、営業停止、リモートワークも彼らには受け入れがたい面もあり、法で縛ろうとしても守らない人は少なくない。
コロナ禍の欧州で何が変わったかと聞かれれば、欧州人も政府のいうことを聞くようになったことだと筆者は答えている。いわばコロナウイルスに屈した形だが、それでも日本人のように従順ではないし、今は「ワクチンを2度打ったから自由」という空気があふれている。
英エディンバラ大学と南アフリカ国立伝染病研究所で新たに公表されたデータによれば、「オミクロン株の感染者が入院に至るリスクはこれまでの変異株の場合よりもはるかに低いことが示された」とある。
ただ、オミクロン株はワクチンによる免疫力を回避する能力を備えているので、感染者は急増する可能性が高く、エディンバラ大学の研究者は論文で、オミクロン株について、高い感染リスクと免疫回避に触れ、「入院の減少というプラス面は感染率の上昇によって打ち消される可能性がある」との見方を示している。
結果として医療体制の逼迫は避けられないとの見方が優勢だ。特に高齢者や基礎疾患のある重症化リスクの高い人々への感染が懸念されている。欧州各国政府は経済活動に大きなダメージを与えない短期間の厳しい制限措置(感染者の隔離期間の短縮など)を導入する構えだが、抵抗運動が過熱化する可能性がある。
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