1つは水際対策だ。欧州連合(EU)を離脱したイギリスを除き、人の移動の自由を保障するEUは域内の国境を封鎖したことはない。域外からEUにどこからか入ってくれば、陸続きの域内の移動は自由だ。フランスにはアフリカ、中東から連日大量の人が出入りしている。
二重国籍を認めているフランスでは、アルジェリア人でもフランス国籍所有者が多く、彼らの入国を拒むことはできない。パリのシャルル・ド・ゴール空港にいけば、このコロナ禍でもアラブ系、アフリカ系の利用者を山のように見かける。水際対策は非常に難しい。アフリカや中東などのワクチン接種が進んでいない国、検査の信憑性が疑われる国からの流入を食い止めるのにも限界がある。
EU域内外をコロナ禍でも物流を止めるわけにはいかず、貨物トラックは往来を認められている。当然、運転手も出入りしている。それにEUへの出入国は一括管理されておらず、加盟各国に委ねられている。そのため規制の甘い国から域内に入り、陸続きのほかの加盟国に移動するのは容易だ。
フランスでは衛生パスの提示を求められないことも
もう1つは、どんなに科学的にリスクを管理しようとしても、対象になるのは人間であるということだ。
例えば、最近筆者がパリ市内で入ったPCR検査をしてくれる医療検査ラボの入り口では、衛生パスの提示を求められなかった。パスの提示を求めないレストランなども少なくない。確認をおこたれば店側も罰金を科せられるが、調べる側が義務を果たしていない。
また筆者が12月に利用した高速列車TGVの出発駅のパリ・モンパルナス駅では、列車を待つ間、係員が衛生パスをチェックし、確認後、色のついた紙を腕にまかれたが、混んでくれば、それなしで乗車した客もいた。車内でも確認はされなかった。
「徹底」や「厳格」という言葉はフランス人やイタリア人、スペイン人には程遠い話だ。最近、不思議に思うのはイスラム女性が禁止されているはずのスカーフを着用していることだ。警察も今は見て見ぬふりで法律では禁止されていても取り締まられていない。フランス人の考えの基本は法が先にあるわけではなく、人の権利が先にあるということで説明がつく。捕まれば警察官と激しい口論になる。
規則重視の国といわれるドイツでさえ、厳格にルールが守られているわけではない。国の強制は、ナチス・ドイツ支配下の個人の権利のはなはだしい侵害の経験から、実は政府が強気に出れば政権が倒れかねないほど、国民は人権軽視には抵抗する。集められた健康データについても政府機関は暗号化された情報しか見ることができないため、誰がワクチン接種を完了したのか個別把握は困難だ。
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