衆院選「各党のネット戦略」詳細分析で見えたこと 今後は政党間格差が広がってしまう懸念もある
今回の選挙では、ネット戦略が少し落ち着いた傾向が見られた。政治・SNSコンサルタントの中村佳美氏が行った調査によると、2019年に行われた参院選に比べ、今回の衆院選ではツイッターの投稿数が減った。盛り上がりに欠けた選挙だったという指摘もあるが、政権奪取を掲げた野党も大幅に投稿数を減らしている。
選挙ドットコムの調査によると、SNSのアカウントを所有する候補者の割合は2019年に比べて増えたが、ツイッターは1%しか増えていない。10%以上増えたユーチューブとインスタグラムの投稿が増えたことに伴い、ツイッターの投稿が減った可能性などが考えられる 。
国政選挙では2016年まではフェイスブックが、2019年にはツイッターが、そして2021年はツイッターとともにユーチューブとインスタグラムを重視する傾向が見られた。これらに並ぶSNSとしては近年台頭しているTikTokが挙げられるが、現在、社民党以外公式アカウントを持っていない。政党や候補者は新しいSNSを活用しているというより、普及率の高くなったSNSを少しずつ導入していることがわかる。
広義の広報戦略では成功した自民党と日本維新の会
ネット戦略ではなく広義の広報戦略という意味では、衆院選でいくつかの成功例が見られた。最終的に前回から15議席減らしたものの絶対安定多数の261議席を獲得した自民党はワクチン接種を進めたことにより選挙前に感染者数が減少、コロナ対策の失敗というイメージが薄れた。
また、衆院選直前に総裁選を行うことでイメージが悪化していた選挙の顔を取り替えただけでなく、メディアジャックなどと呼ばれるほどマスコミの注目を集めることに成功、衆院選に向けて支持率を高めた。
日本維新の会は衆院選においてネット戦略があまり活発ではなかった反面、党の代表と副代表を務めている松井一郎大阪市長と吉村洋文大阪府知事が立候補していないにもかかわらず、大阪での実績を党の成果として発信、多くの議席を獲得した。野党は批判ばかりだと指摘されるなか、実績を強調してイメージの差別化に成功したことの影響は無視できない。
広義のものも含め、伝統的な広報活動に比べるとネット戦略の優位性は不透明だ。街頭演説や集会、選挙カー、通行人との握手、マスコミ対応が発信するメッセージやイメージは現在でも重要だが、ウェブサイトの設置や各種SNSの運用もまた、個々の効果は不明確ながらやらなければならない選挙活動になっている。
以下では今回の衆院選におけるネット戦略の実態を確認すべく、政党要件を満たす9党の衆院選特設サイトとツイッターの動きに注目する。
政党が選挙にあたって特設サイトを設置することは珍しくなくなっている。特設サイトはあらゆる情報をストックする場として機能するが、低価格で運用できるSNSと異なり、構築や運用にはコストがかかる。デザイン性の優れた特別なサイトほど高額化するため、テレビ広告や新聞広告と同様に政党間の財政基盤の格差が可視化されやすい。
今回の衆院選では9政党中8党が特設サイトを設置していた。そのうち8党はサイトを開いてまず表示される領域、いわゆるファーストビューには代表の顔とキャッチコピー、政策情報へのリンクを表示していた。ほとんどの党が政策や候補者の情報、最新の選挙活動やSNSの更新情報、政党CMや代表が政策などについて語るユーチューブ動画を掲載していた。
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