実は、この手の話を受けるのは、今回が初めてではない。それどころか、多少の違いこそあれ、似たような相談ばかり受けているといっても過言ではない。そして、正直に言うと、私自身もビジネスラインの責任を担う端くれとして、この悩みは他人事のようには思えない。
しかし、「あなたの気持ち、手に取るようによくわかります」と言うだけでは、話は前に進まない。だから、このような相談をしてきてくれる受講者には、「バルコニー思考」に関する話をするようにしている。今回は、この「バルコニー思考」について簡単に説明をしたい。
見えない落とし穴に気づくための「俯瞰」力
あの人に仕事を任せておけば、物事がスムーズに進んでいく。どんなに新しいビジネスであっても、決して落とし穴に落ちない。それどころか、新しい視点を盛り込みながら、大きく仕事を改善していく……。
この手の信頼すべきビジネスリーダーは確かに存在する。決して「イノベーター」と言われるような目立つ存在ではないが、確実にビジネスをよりよい方向に導いてくれる影の貢献者。このタイプの人材には、ひとつの特徴があるのではないかと思っている。
その特徴を一言で言うならば、時として高いところから自分のかかわるビジネスのことを眺めている、ということだ。
われわれの多くが、細かく分断されたタスクに追い回されて、そのタスクをいかにこなすかということしか考えられなくなっているときに、そのようなタイプの人材は、あたかも高度2万メートルあたりからわれわれを眺めるがごとく、その時点で必要なものを言い当てることができる。当人にとっては決して奇をてらったものではないが、周囲にいる人間にとって、その発言は極めてユニークで斬新なものに思えるのだ。
このように高いところから物事をとらえるアプローチを、人は「俯瞰思考」「幽体離脱」と呼ぶ。しかし、ハーバード・ケネディスクールのハイフェッツ教授が使った「バルコニーからダンスフロアを眺めるがごとく」(『リーダーシップは教えられる』シャロン・ダロッツ・パークス著)という比喩を踏まえて、ここではあえて「バルコニー思考」という表現を使いたい(結局は「俯瞰思考」と同じ意味ではあるが、「バルコニー」という言葉から感じる絶妙な高度感が個人的に気に入っている)。
いずれにしても、われわれは、地上レベルの視点では気づかないような落とし穴に落ちないように、時として「バルコニー」のような高みに立って自らの姿を見ることが大切なのだ。
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