『独立国家のつくりかた』『坂口恭平躁鬱日記』『徘徊タクシー』などの著作で独特の世界観をみせてきた坂口恭平氏。同氏の、肩書は「建築家・作家・絵描き・歌い手、ときどき新政府内閣総理大臣」だ。冗談?と思うかもしれないが、本人はいたって真剣にマルチな仕事をこなし、小さな世界観の中で暮らす人々の生き方に疑問を投げかけ続ける。
その著者の新作が講談社新書から9月20日に発売された『現実脱出論』である。
人は、いつの間にか、特定の職に就き、そこから収入を得て、ある場所に定住する。一定の型の中に自分をはめていき、そこだけが自分の世界になっていく。当然、視界は狭くなり、前後左右さまざまな角度からタガをはめられているように感じる。物理的な行動範囲まで狭く小さくなっていく。
思考の範囲も、行動範囲も、小さな半径の中にまとまっていき、さざ波を立てずに生きることが人生の目的のようになっていく。「これは近代になって新たに生まれた奴隷制のようなもの。定職に就くのが当たり前、定住することが当たり前ということ自体に疑問を感じなければおかしい」と坂口氏は考えている。
狭いルールの中に自分を押し込め、それを現実だと考えるようになるとどうなるか。順風満帆なうちはいい。しかし、その現実に適応できなくなったとき、人は絶望し、生きることを放棄しようとする。日本では年間3万人もの自殺者がいるのはなぜなのか。「現実は、とっくに生命維持装置としての機能を失っている」と坂口氏は考える。
なぜ自殺をするのか
なぜ自殺をするのか。他人からみると、本当に小さなことのように見えても、本人にとっては真剣なのである。狭いルールから逸脱せざるをえなくなると、多くの人が絶望して自殺をする。
坂口氏は自身の携帯電話番号を直通ホットラインいのちの電話と名付け、「死にたくなったら掛けるように」と、呼びかけてきた。「死にたいと思うのは、脳の誤作動である」ということを伝えるためだ。「本当にたくさん掛かって来た。そのときに、いまやっていること、考えている夢などを話してもらう。多くの人が止まらないほど話をしてくれる。そうした話のやり取りでは、僕自身も何かを得ている」。