楠木:初めてお会いしてから1年ほど経った頃、都内の交差点で車を運転する松本さんをお見掛けしました。車高の低いオープンカーに乗っていませんでした?
松本 ロータスのエリーゼです。よく見ていましたね(笑)。
楠木:そのとき、もちろんやり取りはなかったのですが、松本さんはさわやかな朝、オープンカーに乗っているのに「ものすごくイイ感じでイヤそうな顔」をしていた。この辺りの表現が難しいのですが(笑)。そのときのイヤな感じの表情が本当にイイ感じで、おお、この人にはけっこう面白そうな好き嫌いがあるのかなと勝手に思ったのです(笑)。
メディアでしか松本さんを知らない人は、「好き嫌いがない人の典型」というイメージを抱いている気がします。内的な好き嫌いじゃなく、外的な合理性を基準に「よい選択」を繰り返してきたような。ですから、そういうイメージの松本さんと好き嫌いの話をすると、なおさら面白いのではないか、というのが僕のもくろみであります。
松井やイチローより野茂が好き
松本:まさか、そんなに観察されているとは思いませんでした(笑)。単純に好き嫌いでもよいですか? たとえば、野球では巨人が嫌いですね。
楠木:さっそくイイですね。僕も子どもの頃はオレンジと緑の大洋ホエールズの帽子をかぶっていました。
松本:僕は黒い帽子。幼稚園のときは大の巨人ファンでした。ところが、メキシコオリンピックの中継を見ていたら、男子バレーか何かで審判がソ連をひいきしていると子どもながらに思えたのです。こんなのおかしいと怒っていたら、年季の入ったアンチ巨人の親父が言うのです。「息子よ、巨人戦を見ろ。つねに不公平なことが起きている」と。長嶋茂雄選手が球を見送ったらストライクもボールだとか、王貞治選手がホームにスライディングしたら、どう見てもアウトなのにセーフだとかね。これは親父のすごく偏った見方ですが、これで僕はアンチ巨人になってしまいました。
多くの人が「強い」と思っている人物や、単に「大きい」チーム・組織を何ら理由なく好きにはなりません。体制とか、そういうものが大嫌い。
楠木:お父さまがそういう方だったのでしょうか?
松本:親父は下町生まれで、体制とかあらかじめ認められている大きいものが大嫌いなのです。僕が幼稚園に通っていたとき、何かで親父に怒られましてね。なぜやったんだと聞かれて、「先生がいいって言った」と言い訳をしたら、親父は幼稚園児の僕に激怒したんですよ。「おまえは教師が人を殺せと言ったら人を殺すのか!」って。
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