「2021年売れた芸人」に共通するただ1つの共通点 人々は芸よりもパーソナリティを求めている

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一方、もう中学生は、甲高い声と底抜けに明るいキャラクターでおなじみの男性芸人。自分で絵を描いた巨大な段ボールを使ってネタを演じる「段ボール芸」で有名になり、一時はネタ番組で引っ張りだこになっていた。

その後、人気が落ち着いてテレビに出る機会が減っていたのだが、今年に入ってから、有吉弘行のラジオ番組に出演したことなどをきっかけにして人気が再燃。

多くのバラエティ番組に出演して再ブレークを果たした。10月には自身初となる冠番組『もう中学生のおグッズ!』(テレビ朝日)も始まった。

もう中学生は、キャラクターや芸風の独自性ばかりが注目されがちだが
、ここまで人気を博しているのはその面白さに加えて、人柄が愛されているからだろう。笑いに対して誠実に向き合い、いつも明るい笑顔を見せている。取り繕った表面的なキャラクターではなく、内面からにじみ出る温かみが好印象を与えている。

芸よりもパーソナリティが重視される時代

さらに言えば、今年の『キングオブコント』で優勝した空気階段の鈴木もぐらや、『M-1』で優勝した錦鯉の長谷川雅紀も「人間力」を売りにしている芸人である。

鈴木は極度のギャンブル中毒者であり、多額の借金を抱えた「クズ芸人」として知られていた。結婚前の独り暮らしの時期にはほとんど掃除もせず家の中は荒れ放題で、その不衛生が原因で「ネズミしかかからない病気」にかかったこともあったという。

一方の長谷川は、今年50歳になった「おじさん芸人」である。芸歴は30年近くになるが、その間ずっと貧乏暮らしをしていて、すさんだ生活を送っていた。ギャンブルにハマって借金を重ねたこともあったし、不摂生のために歯は8本抜けている。

しかし、そんな鈴木や長谷川は、その破天荒な生き様も含めて多くの人に愛されている。彼らには妙なかわいげがあり、自分の欠点も堂々とさらけ出し、明るく生きていく姿が好感を持たれている。

こうして振り返ると、2021年のお笑い界では「人間力」が強い芸人が売れっ子になるケースが目立っていた。特定のネタやギャグやキャラクターではなく、人間としてのありのままの姿が魅力的な芸人が注目される傾向にあった。

コロナ禍が続いて誰もが息苦しさを感じている時代だからこそ、前向きなエネルギーに満ちた芸人の「人としての強さ」が輝いて見えたのかもしれない。来年以降のお笑い界にも希望が持てそうだ。

ラリー遠田 作家・ライター、お笑い評論家

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らりーとおだ / Larry Tooda

主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

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