ワクチン接種「デジタル証明書」が持つ重大な役割 科学的なコロナ対策の要かつ安全な経済再開の鍵

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複数種類・複数言語の証明書がある場合、その内容を入国に必要な条件に即して適切に確認するのは現場として負担が大きい。紙の証明書をデジタル証明書に切り替えることによるコストの大幅軽減が期待されている。しかし、単にデジタル証明書が提示できるだけでは不十分であり、世界中の証明書が効率的に読み取れるリーダーの開発、アプリ間での相互運用性の担保、予約サイト等へのAPI連携によるエコシステムの整備などがなければ、デジタル化の真のメリットは享受できない。

身近な例では、地域ごとに展開されているワクチン・検査パッケージも、相互運用性なくしては、自治体をまたいだ移動への対応ですら十分にできない。ビジネスマンや留学生が国を越えてデジタル証明書を使おうとすれば、相互運用性の課題はさらに深刻だ。どこの国のどのような状況であっても1つのアプリで本人の情報を提示できるようにすることを目指さねばならない。デジタル庁による国内外でのリーダーシップが必要な領域といえる。

日米アジアでの国際標準確立の好機

アメリカと日本がSHCを採択したことにより、GDPで世界1位と3位の国が1つの規格を支持する状況が出現した。アメリカがSHCを選んだ背景としては、医療データの国際標準(HL-7 FHIR, WC3)に則っているオープンスタンダードであることも大きい。

一方で、EUと中国は独自の規格を採択している。問題は、世界の他の国々がどの規格を採択し、どの規格が国際標準となるかだ。新型コロナウイルス感染症の突然の流行に伴い世界中で登場したこれら証明書の規格は、あらゆる医療データの規格の基礎となりえる。

日本は、アメリカやアジアの他国と連携してアジア太平洋横断の国際標準を構築し、さらには現在政府が推進している、個人が自らの健康・医療情報を見ることができる仕組み(PHR: Personal Health Record)を含めた医療データを用いた政策に関してもリードし、世界における科学的なコロナ対策および未来の医療データのあり方を方向づけるのが望ましい。

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重要なのは、この国際標準の国際競争が、産業的な競争であるだけではなく、本稿で繰り返し述べてきた理念の競争であるという戦略的な視点である。わが国は、自由で、開かれた国際社会を主導する国として、理念に基づくデジタル証明書の活用を成功させる意思が問われているのである。

藤田 卓仙 慶應義塾大学特任准教授

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ふじた たかのり / Takanori Fujita

2006年東京大学医学部卒業、2011年東京大学大学院法学政治学研究科修了。名古屋大学経済学研究科寄付講座准教授等を経て、2018年から慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室特任准教授。 専門は医事法、医療政策、特に医療AIやオンライン診療も含む、医療情報の取り扱いに関する法制度や倫理。社会的活動として、内閣官房 接触確認アプリに関する有識者検討会合 委員、日本整形外科学会 倫理委員会 委員等。主な著書に『認知症と医療』((勁草書房、2020)、『次世代医療AI:生体信号を介したAIとの融合』(コロナ社、2021)などがある。

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