野口聡一「今日、僕は仕事しない」の必要性説く訳 宇宙は「究極のテレワーク」メリハリつける難しさ

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スペースシャトルの時代だと宇宙滞在は2週間だった。だから、24時間働くことができた。2週間しかないと思うと、宇宙飛行士も成果を上げたいと張り切るからだ。トラブルが起きたら徹夜で作業し、翌日「問題なく再開しました」と地上に報告するのが勲章みたいになっていた。まさに寝食を削って仕事をしてしまう。

せっかく宇宙飛行に出たのに「窓の外を見る暇はなかった」と誇らしげに語る飛行士もぞろぞろいた。それくらい、クルータイムとフリータイムの区別はできていなかった。

しかし、国際宇宙ステーションに長期滞在するようになってもそんなペースで働いていたら、滞在期間の6カ月はもたない。「燃え尽き症候群」みたいになってしまうだろう。

宇宙飛行士の「働き方改革」

ちょうど国際宇宙ステーションができて10年目にさしかかった時期だったと記憶する。わたしの2回目のフライトのころ、ようやく宇宙飛行士の〝働き方改革〟が始まり、1つひとつの作業時間の見積もり精度を上げて残業時間を減らそうという試みが始まった。一日の労働時間は8.5時間と決まっているのだが、作業時間の見積もりが甘いといつまでたっても仕事が終わらないという例が多発していたのだ。

そこで、作業の開始と終了を明確に地上に報告することで見積もり時間の精度を上げるとともに、終業時刻がきたら、もう仕事はやめようという動きが出始めるようになった。もしトラブルが起きても、翌日に回せるのであれば、イブニングDPCで打ち切る。地上もそれ以上深追いしない。後の措置は地上で夜間に考えてもらい、翌朝、解決策や修正プランを提示してもらった上で国際宇宙ステーションの作業を再開する。

まあ、そうはいっても終業時間を超えてがんばらないといけないときもある。一番わかりやすいのは、無人貨物船が来たときの対応だろう。地上から新しい実験機器や生活物資を運んでくれる貨物船が国際宇宙ステーションにドッキングすると、何トンもの荷物をどんどん積み下ろし、同時並行で地上に戻す物品を貨物船の空いたスペースに積み込んでいく。場合によっては2機の貨物船が相次いでやってくることもあるし、そもそも国際宇宙ステーションにドッキングできる期間には限界がある。

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