野口聡一「今日、僕は仕事しない」の必要性説く訳 宇宙は「究極のテレワーク」メリハリつける難しさ

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そうなると、通常業務の傍ら、最初の1週間くらいはがんばって荷下ろしをしないと荷物の入れ替えが間に合わない。必死になって徹夜に近い状態で荷下ろしをする。思い返すと、わたしのミッションでも、貨物船がドッキングしている期間はみんなけっこう疲弊していたなぁ、とあらためて思う。

わたしの見る限り、ロシア人やヨーロッパ人は夕方6時がやってくるとサッサと終わる。労働時間と自分の時間の切り替えが上手なんだなと思う。一方、日本人やアメリカ人はそうはならない。まさにワーカホリック。放っておくと、何時まででも仕事をしてしまう。

微妙な残業リスト「タスクリスト」

労務管理上、毎日の作業スケジュールには残業がないことになっているが、実は、クルーが自主的に仕事を行うという趣旨で作成された「タスクリスト」なるものがあり、これがくせ者だ。

ありていに言えば、「作業スケジュールにはないけれど、やってほしい」という地上からの要望が詰まったもの。急いでやらなくてもいい。でも、地上としては、やってくれると助かる……そんな矛盾と巧みな思惑をはらんだ作業リストなのだ。

『宇宙飛行士 野口聡一の全仕事術』(世界文化社)(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

〝働き方改革〟のおかげで作業時間を余裕を持って設定するようになった結果、規定よりも早く予定業務を終える日が出てくるようになった。そこで、空いた時間に自己裁量で仕事をこなしてもらおうという趣旨から「タスクリスト」が誕生した。

例えば、物品の整理をしたり、船外活動で使うツールに異常がないかを確認したりするような作業は、管制センターのサポートがなくても宇宙飛行士が単独でできる。そういう単純作業が「タスクリスト」に盛り込まれることが多い。なるほど、経緯からして、〝働き方改革〟の副産物といえなくもない。

予定された業務が早く終わって時間が余ったときは、「残り時間はタスクリストにある業務をこなしてください」という指示がくる。時間がなければ無理にやる必要はないはずなのだが、消化できていないタスクリストの作業が多いと、きまじめなクルーはオーバーワークになりがちだ。

新人の宇宙飛行士などはついがんばってタスクリストの消化に努めてしまい、場合によっては週末のフリータイムも使って仕事をしてしまう。数週間の短期宇宙ミッションなら何とかなるが、半年から1年もの長期滞在者にそれを課したらおかしくなってしまう。

メリハリをつけ、「今日、ぼくは仕事をしない」と決めないと、ワーク・ライフ・バランスの観点からもよくないことが起きてしまいかねない。往年のテレビCMに「24時間戦えますか!」というのがあったが、いまは「8.5時間しか戦いません!」というのが、メンタルヘルスを保つうえでは正しいスタイルなのかなと思う。

野口 聡一 宇宙飛行士

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のぐち そういち / Soichi Noguchi

博士(学術)。1996年5月、NASDA(現JAXA)の宇宙飛行士候補者に選抜、同年6月NASDA入社。2005年スペースシャトル「ディスカバリー号」で、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在、3度の船外活動をリーダーとして行う。2009年、ソユーズ宇宙船に船長補佐として搭乗。2020年、日本人で初めて、民間スペースX社の宇宙船に搭乗、約5か月半、ISSに滞在した。4度目の船外活動(EVA)や、「きぼう」日本実験棟における様々なミッションを実施し、2021年5月、地球へ帰還。主な著書に『どう生きるか つらかったときの話をしよう 自分らしく生きていくために必要な22のこと』アスコム刊がある。

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