野口聡一「今日、僕は仕事しない」の必要性説く訳 宇宙は「究極のテレワーク」メリハリつける難しさ

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以上が、国際宇宙ステーションでの公式上のタイムラインである。このラインに上がる具体的な業務内容は、およそ次のような手順で決められている。

ミッションのスケジュールを決めるプランナーが、まず6カ月間の作業スケジュールを決める。この6カ月プランを基に、次は2週間プラン。進捗状況によって毎週見直しが入るが、ここまでは、わたしたちクルーは口出ししない。

その次が、毎日のスケジュール。起床時間から就寝時間までびっしりと決められたものがだいたい1週間前に伝えられる。それを見ると、まさに文字通り、分刻みの業務がズラリと並び、目が回るような忙しさだと実感する。

ただ、想定どおりにはいかないものだ。1時間の作業のはずが2時間かかったり、あるいは30分のところが5分で終わったりする。そこで、午前と午後の作業を午前中にまとめてこなしてしまう自己裁量がクルーに認められている。そうすることで、空いた時間に教育プログラムのビデオづくりをしたり、壊れた機械の修理をしたりすることができる。 

現在、国際宇宙ステーションの船内映像はNASAのウェブチャンネルでそのまま見ることができるし、JAXAが同様に中継することもある。就業時間、つまり「モーニングDPCとイブニングDPCの間」は、いつ船内映像が地上で見られてもいいという習わしが周知されている。ちょっと言い方は悪いが、まるで刑務所の囚人のように、カメラで〝監視状態〟にさらされているわけだ。

ただしこの〝監視カメラ〟、それ自体悪いことじゃない。それぞれの作業がどのように進んでいるかを管制官に正確に把握してもらうことは大事だし、実験トラブルがあると、地上の管制官が「何か問題が起きてる?」と気づいて声がけしてくれることだってある。

この〝監視カメラ〟に加えて、わたしたちはひとつの作業が始まるときと終わるときにパソコン上で記録をしている。これは地上で行う「打刻」と似ている。その点からみても、わたしたち宇宙飛行士は地上からテレワーカーとして日夜チェックを受けていることになる。

メリハリをつけないと、過労になりがちに

業務に就く「クルータイム」と個人で自由に使える「フリータイム」の切り替えは、実は言うほどたやすくはない。国際宇宙ステーションは、究極の「職住接近」。朝起きたらそこはもう職場だ。週末の休日だって、目の前で実験装置が回っている。ついつい〝ながら仕事〟ということにもなりかねない。

特に、新人飛行士ほど要領がわからず、メリハリをつけるのが大変で、つい過労になりがちになる。実際、日々のスケジュールが詰まっているので、夜間に1~2時間くらいの〝残業〟時間を使って、翌日の作業に必要な道具や予備の部品を集めておいたり、手順書の内容を勉強したりすることがままあるものだ。

これは実に深刻な問題で、テレワークをしている働きすぎの会社員と共通する現象が実際に起きている。

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