エボラ出血熱、日本発“特効薬”への期待 WHOの最新方針は肩透かし

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日本政府はこれまで「WHOからの要請や一定の条件を満たせば、ファビピラビルを提供する」と意気込んでいたが、供給要請はもう少し先になりそうだ。富山化学工業は「現在、2万人分以上の在庫があり、エボラ出血熱の現在の患者数に対しては十分な量がある。ただ、今後もどのような治験データが必要になるのかなど当局と話し合いを続けていく」と話す。

一方、ZMappについてはどうか。キーニー事務局長補はこちらについても「8月に実験的に投与されたことで有望であることが示唆されはしたが、効果があるのかないのかを結論づける十分な経験がまだない。ほかの開発段階にある新薬と同様、データが揃い次第、早急に検討する」とした。

血液治療の効果は?

今回の会議で最優先治療に据えられた血液治療とはいったいどのようなものなのか。感染国には、エボラ出血熱に感染したものの生き延びて回復した人も数多くいる。こうした人たちの血液には抗体が含まれているため、輸血を受けたり血清を投与したりすることで、エボラ出血熱の治療に使えるというわけだ。1995年にコンゴ共和国のキクウィトでエボラ出血熱が流行した際にも使用され、効果があったという。

この治療法が最優先とされたのは、今すぐに感染国内で実施できるためだ。会議に参加したナイジェリアのウイルス学者は「ワクチンや新薬の臨床試験結果が出るまでにはまだ時間がかかる。が、それまで待っていられない」と強調した。

2つのワクチンについては、9月半ばから欧米やアフリカの医療機関で安全性についての臨床試験が開始され、結果が出るのは今年(2014年)11月とされている。新薬のデータが出そろうのはさらに先の話。感染封じ込めに緊急性を要するという点で、最も有効な手段と判断されたわけだ。

現地で活動する国境なき医師団のジョアンヌ・リュー会長は、「史上最悪の流行に突入して6カ月。エボラ出血熱の封じ込めに世界は敗れつつある」と話したが、今回の会見でキーニー事務局長補は「私たちは『もはや希望がない』という思いを改め、現実的な希望を見出していかなければならない」と宣言した。感染拡大に歯止めをかけられるか。ウイルスとの戦いは続く。

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堀越 千代 東洋経済 記者

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ほりこし ちよ / Chiyo Horikoshi

1976年生まれ。2006年に東洋経済新報社入社。08年より『週刊東洋経済』編集部で、流通、医療・介護、自己啓発など幅広い分野の特集を担当してきた。14年10月より新事業開発の専任となり、16年7月に新媒体『ハレタル』をオープン。Webサイト、イベント、コンセプトマガジンを通して、子育て中の女性に向けた情報を発信している

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