「バイデンフレーション」がアメリカ民主党を直撃 中間選挙に向けて共和党が勢いに乗っている

拡大
縮小

トランプ前政権時代、アメリカの政策は大統領のツイッターに振り回され、右往左往した。2020年大統領選では政治の正常化を求めた多くの国民によってバイデン氏は当選したといっても過言ではない。年初に発足したバイデン政権は経験豊富な幹部を揃えたドリームチームで危機脱却と国の再建に臨んだ。

バイデン政権は新型コロナのワクチン普及、失業率低下をはじめ想定以上の急速な経済回復、超党派インフラ投資法成立など政権発足以来、短期間にさまざまな成果を出した。これまで共和党は経済政策においてバイデン政権の批判が可能な要素を見つけるのに苦労してきたが、広範囲にわたる国民が気にするインフレ問題浮上で、ようやくバイデン政権の急所を見つけたようだ。

クリントン政権時代に財務長官、オバマ政権時代に国家経済会議委員長を務めたハーバード大学のローレンス・サマーズ教授は、インフレの政治的悪影響を解説している。同氏は失業率悪化の影響は2~3%の国民が受ける一方、インフレ率の上昇は100%の国民が購買力を奪われると指摘。ヤフーニュース・ユーガブ世論調査(2021年11月17~19日)によると、100%ではないが、たしかに77%もの国民がインフレの影響が個人生活に及んでいると回答している。

過去の選挙でもたびたび、インフレが大統領および大統領率いる政党に対する攻撃材料として利用され、効果を発揮した。1980年大統領選を制したロナルド・レーガン元大統領は、選挙キャンペーンでジミー・カーター政権の責任を追及した。当時のインフレ率は14%まで上昇し、経済低迷でスタグフレーションに陥っており、今日よりもずっと深刻な状況であった。現在はそれほどの率ではないものの、共和党のケビン・マッカーシー下院少数党院内総務は1期だけで終わったカーター政権にバイデン政権を重ね合わせるキャンペーンを展開している。

トランプ時代の混乱に戻るのか

中間選挙で民主党の勝利を可能にする手法は、国民の関心の焦点を、バイデン政権の失策からトランプ前大統領の問題点を再認識する方向へシフトさせることであろう。トランプ前大統領が争点となれば、共和党内でも亀裂が生じ、民主党内でも選挙に関心が高まる。しかし、引き続きバイデン政権のインフレ対策に焦点があたっていれば、共和党は一枚岩でインフレ批判を展開し中間選挙に臨むことができる。

2022年にはインフレ率がFRBの目標値である2%を下回ることは当面ないとしても、徐々に低下していくことが想定される。だが、中間選挙のころにはインフレ対策をはじめ政権の混乱のイメージが国民の間ですでに固定化されてしまっているリスクがある。

南北戦争以降の中間選挙で、下院で大統領率いる政党が議席を増やしたのは39回のうち3回のみだ。民主党が議会で多数派を維持する可能性はほとんどなく、今や、どこまでダメージを縮小できるかに議論は移りつつある。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
猛追のペイペイ、楽天経済圏に迫る「首位陥落」の現実味
猛追のペイペイ、楽天経済圏に迫る「首位陥落」の現実味
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
ホンダディーラー「2000店維持」が簡単でない事情
ホンダディーラー「2000店維持」が簡単でない事情
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT