「バイデンフレーション」がアメリカ民主党を直撃 中間選挙に向けて共和党が勢いに乗っている

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今のインフレは過度な需要増と抑制された供給の両方によって生じた需給の不均衡と説明できる。つまりダブルパンチで物価上昇は起こっている。

供給サイド、つまりコストプッシュが起きているのには、「大量自主退職(Great Resignation)」と呼ばれる現象、すなわち、仕事を自主的に辞める国民が多くいることも影響している。特に人との接触があって新型コロナ感染のリスクのある低賃金労働の飲食産業をはじめとするホスピタリティ関連では労働力不足が生じている。

このほか、労働者によるストライキやアメリカの抱える構造的なインフラ問題、世界的なサプライチェーン問題などさまざまな供給抑制の要素が物価上昇に影響している。これらの多くはバイデン政権の責任とは言えない。

一方、需要サイド、すなわちディマンドプルでも新型コロナの影響は大きい。アメリカの消費の多くがサービスからモノにシフトした。例えば、フィットネスクラブを退会し、自転車や自宅用ダンベルなどを購入する人が増えるといった現象が見られる。

しかし、需要面ではバイデン政権にも明らかに責任がある。トランプ政権下の2回のコロナ経済対策の給付金(1人当たり1200ドル、600ドル)に続き、バイデン政権は2021年3月に民主党のみで成立させたアメリカ救済計画法(American Rescue Plan〈ARP〉 Act)に基づき追加給付金1人当たり1400ドルを支給した。ちなみに、トランプ氏も自らの政権時代に、この追加給付金は支持していた。

火に油を注いだ追加給付金

アメリカ救済計画法は、成立当時は国民の支持も高く、大きな成果としても受け止められた。経済的影響など中身を十分に精査せずに民主党のみで同法を成立させた背景には、過去の反省がある。2008年リーマンショック後のアメリカ復興・再投資法(American Recovery and Reinvestment Act〈ARRA〉)で民主党は超党派合意を重視して審議に長時間を費やした結果、規模が小さくなり経済回復が遅れたと考えている。つまりオバマ政権を経験した多くのバイデン政権幹部は、今回の不況対策では失敗を繰り返さないことに執着した。

したがって、バイデン政権幹部は新たな課題に冷静に対応することを怠った面も否定できない。今となってみれば、経済回復の進む中での1400ドルの追加給付金は、火に油を注ぐ行為でインフレを加速させた失策であったとの見方が有力だ。つまり、アメリカ経済を生産拡大に移行させる規模以上に政権は市場にお金を投入してしまったのだ。一部のエコノミストはそのギャップは対GDP比で約10%にのぼると算出している。追加給付金は短期的には国民に好評であったものの、中長期的には不人気なインフレをもたらしたようだ。

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