射幸心を煽り「20歳に死を選ばせた」株アプリの罪 「ゲーム化」はビッグテックの次なる支配戦略

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2020年6月には、こうした搾取の最大の犠牲者が現れてしまった。20歳の青年が自殺したのだ。イリノイ州ネイパービルに住む、アレックス・カーンズ。彼は株式市場に興味を持ち、ロビンフッドで株取引を始めた。

ロビンフッドで簡単に取引できたことで乗り気になったのだろう。彼はオプション取引に手を出した。その後、この麻薬取引の複雑なルールを誤解して、彼は73万ドルを失ったと思い込んだ。どうしようもなくなった青年は、自ら命を絶った。

ロビンフッドのユーザーは若者に偏っている(ビジターの32%は25~34歳)。同社によると2020年第1四半期の新規アカウントは300万件。その半分が株取引初心者だった。

さらにロビンフッドやその同業者は、ギャンブル依存症の新たな温床になっている。ラスベガスやギャンブル・スポーツがパンデミック初期からほとんど中止になってしまったためだ。

これは、資金の貸し手がギャンブルの胴元をしているリハビリ施設のようなものだ。パンデミックで政府が配った1200ドルの給付金のうち、どのくらいがそのままオンライン株取引に流れたのだろうか。

GAFA+Xから「子どもたち」をいかに守るか

こうした電子機器依存症から子どもを守る負担の多くは親の肩にのしかかる。厳しく使用制限することと、学校の他の親にも制限させるよう仕向け、仲間外れに感じる子が出ないようにすることが必要だ。

これらは難しいが、やらなければならない。家族みんなが「電子機器断ち」することで、神経系をリセットすることができるだろう。ドーパミンの閾値を下げれば、もっと小さな喜びで満足できるようになる。

電子機器依存の脅威に直面して、わが家では生活をスローダウンさせている。息子の1人が電子機器依存とおぼしき兆候を示している。それは恐ろしいことだ。彼のやること、言うこと、がんばっていることのすべてが、iPadからもたらされるドーパミンを求めているからだ。

母親と父親(私)は、一般の親と同じことをやっている。本を読んで聞かせたり、外部の助言を求めたり、電子機器の使用を制限したりだ。

私は自殺したアレックス・カーンズと私の長男の顔を比べてみる。ニュースで見るカーンズは満面に笑みを浮かべたオタクっぽい青年だ。株取引に夢中になってドーパミンを追い求めた顔だ。私は彼の家族の苦しみを想像することができない。

私たちはどうして道を間違えてしまったのか。イノベーションやカネはたしかに重要だが、どうして大切な子どもの命よりも優先してしまったのか。私は想像できない。

若者の自殺率は10年で56%も上昇した。10~14歳の少女については、自傷行為が2009~2015年の間に3倍になっている。1日5時間以上ソーシャル・メディアを使っているティーンたちは、1時間未満に抑えている子の2倍もうつになる確率が高い。

アップルの最高経営責任者ティム・クックが、自分の甥にソーシャル・メディアをやってほしくないと思うのは何の不思議もない。あなたはティム・クックではないのだから、ついでにiPadも持ってほしくないと言ってあげてほしい。

(翻訳:渡会 圭子)

スコット・ギャロウェイ ニューヨーク大学スターン経営大学院教授

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Scott Galloway

ニューヨーク大学スターン経営大学院教授。MBAコースでブランド戦略とデジタルマーケティングを教える。連続起業家としてL2、Red Envelope、Prophetなど9の会社を起業。ニューヨーク・タイムズ、ゲートウェイ・コンピュータなどの役員も歴任。2012年、クレイトン・クリステンセン(『イノベーションのジレンマ』著者)、リンダ・グラットン(『ライフ・シフト』著者)らとともに「世界最高のビジネススクール教授50人」に選出。

著書『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』は15万部のベストセラーになり、「ビジネス書大賞2019 読者賞」「読者が選ぶビジネス書グランプリ2019 総合第1位」の2冠を達成、日本にGAFAという言葉を定着させた。

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