仮に、財務省が「巨額補正予算」に備えていたのであれば、そのこと自体が財政規律の弛緩につながる。なぜなら、もし財投債に削減余地がなければ補正予算の拡大によって市中での国債発行がダイレクトに増加していたと予想されるからである。そうすると、国債の需給悪化が懸念されて金利が上昇してしまうことも考えられ、政治サイドが補正予算を小さくする努力を多少はしたかもしれない。つまり、すでに発行しておいたことで巨額予算であっても市場から警告が発せられなかったのである。
財務省は、不要になるかもしれない財投債を事前に発行しておくことにより、「安定的な国債発行」という目的は達成したのかもしれないが、結果的に財政への危機感を低下させ、財政規律を弛緩させているといえる。
財務次官の論文に対して、「日本銀行の国債買い入れが財政規律の弛緩を招いているという指摘が足りない」という批判がある。日銀の国債買い入れによって低金利環境が定着していることが、財政の弛緩につながっているという指摘である。この点に関しては、中央銀行の政策の独立性から論文内で指摘することが難しかった面があるだろう。
補正予算の大型化を容認し、準備している
しかし、財務省自体が、①補正予算の大型化を容認している可能性や、②それを前提に国債発行をコントロールしている可能性については、言及があってもよかったのではないだろうか。このままでは、財務次官の論文の最大のインプリケーションは、「政治家と官僚の信頼関係が構築されていない」ことを示したこと、になってしまう。
財務次官の論文からは、バラマキ政治がコントロール不能になっているというメッセージが感じられた。バラマキ政治を忖度して対応することに組織が疲弊し、財務省が政治家の要求に対する「備え」を重視する体質になってしまっているのではないか。これは、財政再建を主張する以前の問題である。
① 財務省(2021)「債務管理リポート2021 -国の債務管理と公的債務の現状」
② 服部孝洋・稲田俊介(2021)「国債整理基金特別会計および借換債(前倒債)入門」、財務総合研究所 財務総研スタッフ・レポート
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