「新しい資本主義実現会議」は8日、当面の経済対策や税制改正へ向けた緊急提言案を取りまとめた。岸田首相が強調してきた「分配戦略」の文脈では、「金融所得課税」のような課税強化策は盛り込まれず、「賃上げ税制」といった施策が中心となった。第2次安倍政権のときから「賃上げ」はデフレから脱却するという「成長戦略」の文脈でも重視されてきた経緯があり、「分配戦略」なのかどうかは疑わしいうえに、「賃上げ税制」は第2次安倍政権下で創設されているので、目新しさもない。
このような「成長と分配」の「混同」は11月9日に行われた経済財政諮問会議でも散見された。民間議員が提出した資料によると、「リスキリング」(学び直し)の推進によって「誰もが何度でもチャレンジできてやりがいのある社会、格差が固定化しない社会を構築できる」と分配の文脈で説明された。この解釈は筆者にとって目からうろこであった。しかし、「リカレント教育」や「リスキリング」はこれまでの政権が主張していたように「成長戦略」だろう。
看護・介護・保育士の給与引き上げが焦点
さまざまな政策を具体化する中で、岸田首相の色は薄まりつつあり、「新しい資本主義」が「どこへ行こうとしているかまだわからない」(内閣官房幹部)という声も生じているとのこと(朝日新聞、11月9日付)。だが、首相周辺によれば看護や介護、保育で働く人たちの給与引き上げを中心とした「公的価格の引き上げ」に対する岸田首相の「思い入れは強い」(同、11月10日付)という。
この政策こそ、かなり「分配政策」の面が強く、「成長戦略」とは距離があると、筆者は考えている。財源が決まっておらず、政策の最終的な形は定まっていないものの、この政策が広く受け入れられるかどうかが、「新しい資本主義」の成否を占うことになるだろう。
今回のコラムでは、「公的価格の引き上げ」が経済に与える影響を議論することで、「新しい資本主義」の考え方に迫っていく。
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