医療・介護・福祉の公的価格引き上げは成長に逆行 岸田首相「新しい資本主義」の本気度が試される

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結論を先に述べると「公的価格の引き上げ」によって、介護・医療・福祉業そのものの生産性を引き上げ成長率を押し上げることは、いくらかは期待できるものの、これらの産業に従事する人が増えることで、マクロレベルでは日本経済の生産性が低下する可能性が高い。介護・医療・福祉のサービス充実と、これらに従事する人の待遇を改善することと引き換えに、いったんは経済全体の生産性を犠牲にすることになるだろう。

また、国民は一定の負担を強いられる。内閣官房幹部は、「人件費なので安定財源がいる。賃金引き上げをやるために、簡単ではないが財源を寄せ集めなければならない」としている(朝日新聞、11月10日付)。現役世代や高齢者が月々払う介護保険料や、医療費の窓口負担が連動して増える懸念も指摘されている。政府関係者は国民の負担増について、「それだけのサービスを受けるんだから、社会システムを維持するために理解してもらうしかない」と話すが、一定の反発も予想される(同)。

財務省の矢野康治財務次官はいわゆる矢野論文(『文藝春秋』11月号掲載)で「国民を侮るな」と、バラマキ政策を批判した。「新しい資本主義」の議論も、「総花的に成長戦略を並べておけばよい」というこれまでの政府のメッセージ(少なくとも、筆者はそう感じてきた)に対して、「国民を侮るな」という、これまでの政権の安易な姿勢への反省なのかもしれない。

医療・介護・福祉業の就業者は増加する

「公的価格の引き上げ」が行われれば、人手不足感が強い「介護サービスの職業」や「保健医療サービスの職業」の就業者数が増えるだろう。これらの業種の有効求人倍率は高水準にあるからだ。そのうえ、厚生労働省によると介護職員の必要数は2022年度に2019年度比で約22万人増、2025年度には同約32万人増と、右肩上がりで増加していく見込みであり、人材確保が喫緊の課題である。

人手不足感を示す日銀短観の「雇用人員判断DI」(「過剰」-「不足」、2019年3~12月調査平均)と「きまって支給する給与」(2019年平均)を比べると、正の相関関係(給与が低い業種ほど雇用の不足感が強い)が得られる。政府が介護・医療・福祉業の賃金を上げる姿勢を明確に示し、実行していくことにより、こうした業種の労働者が増加しやすくなるだろう。

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