医療・介護・福祉の公的価格引き上げは成長に逆行 岸田首相「新しい資本主義」の本気度が試される

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医療・介護・福祉業の人手不足問題の解消と引き換えに、マクロ経済全体の生産性は低下するだろう。「公的価格の引き上げ」によるマクロ経済における最大の影響は、生産性が相対的に低い産業への労働移動が促される点である。

11月9日の経済財政諮問会議では、民間議員がリカレント教育の必要性について「人々がいつでも学び直し、能力向上を図ることができる環境を整備し、成長分野への労働移動を促進することが必要」としたが、(現状では)労働生産性の低い医療・介護・福祉業への労働移動は、この考えとは正反対である。

必要性と生産性をどう考えるか

德田(2019)によると「高齢化の進展で医療・介護分野が拡大する中、これらの分野の労働生産性が低い水準のままにとどまれば、マクロ的な労働生産性が低下していく」という。秋元(2021)も、過去20年程度の業種別の産業構造とTFP(全要素生産性)の変化を分析し、「経済全体に占める付加価値シェアが高まっていくことが想定される医療・福祉等の産業分野において、重点的に生産性向上の取り組みを進めることが重要であると考えられる」としている。

<参考資料>
・ 德田雄大(2019)「医療・介護セクターの拡大によるマクロ労働生産性への影響」、財務省ファイナンス、コラム経済トレンド
・ 秋元虹輝(2021)「産業構成の変化によるTFP上昇率への影響と今後の見通し」、財務総研リサーチ・ペーパー

2019年時点で実質労働生産性(1時間当たり)は全業種(5761円)と「保健衛生・社会事業」(3200円)となっており、約44.4%乖離している。日本経済全体では、「保健衛生・社会事業」を含む産業構造の変化による労働移動によって、1995~2019年の累計で実質労働生産性は約2.9%低下した。

2019年のデータによると、「保健衛生・社会事業」の雇用者数の比率は約12.6%である。仮に、「保健衛生・社会事業」の雇用者数が1%増加すると(他の業種は減少)、経済全体の実質労働生産性は約0.5%低下する。

德田(2019)によると、今後も高齢化等の要因で、「保健衛生・社会事業」の就業者数は増え続ける見込みであり、保健衛生・社会事業の産業別就業者の就業者全体に占める割合は、2030年には15.1%程度、2040年には17.5%程度に比率が上昇するという。これは、年当たり約0.1%の実質労働生産性の押し下げに相当する。

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