宇宙食に「ウナギの蒲焼き」長野の老舗が挑む理由 過酷な宇宙飛行士の生活に必要な「心の栄養」
社長に就任した宮澤にとって、気がかりだったのはふるさとの未来だった。戦前は製糸業のまちとして知られた岡谷市は、ピーク時には6万人以上の人口があったが、減少が止まらない(現在は約4万7000人)。まちに元気がなくなりつつある。町おこしとしてうなぎの食文化を盛り上げようとするなかで、「岡谷らしさ」をアピールできるオリジナルうなぎを生み出せないか。
そんな思いに駆られていたとき、以前からの知り合いだった岡谷出身の冒険家・小口良平氏(41)の講演会に出かけた。南極自転車冒険の願望、未来の宇宙への挑戦の夢を語る同世代の冒険家の話に惹かれた宮澤は、講演後に小口氏と話をした。
「その時、極地食の話になったんです。いつか南極でうなぎのかば焼きを食べてほしいと言ったところ興味を示してくれました。そこで、なんとか一緒にチャレンジできないかと思い始めました」(宮澤)という。
極地食に興味を抱いた宮澤は、極地向けのうなぎのかば焼きの開発について調べた。すると、これがなんともハードルが高いことが分かってきた。保存性(長期保存)、衛生管理、調理工程の容易さ、軽量化、高栄養価、これらすべてを備えていなければならないのだ。地方の飲食企業には高いハードルである。
「宇宙日本食」の公募を知り…
さらに当時、宮澤は新たな経営課題を抱えていた。食品衛生法改正に伴い、2021年6月から食品を扱うすべての企業でHACCP(ハサップ:食品の安全性確保のための衛生管理の手法)義務化が決まり、これに対処しなければならなくなったのだ。ハードだけでなく人的教育も含めたソフト面の強化も必要となる。
そんな時である。JAXA(宇宙航空研究開発機構)が「宇宙日本食」を公募していることを知った。公募するには、HACCPに準拠したJAXAの認証基準を満たさなければならない。
ホームページで確認すると日清食品、キッコーマンなど錚々たる企業の名前が並んでいる。それでもあきらめずに問い合わせてみると、認証基準さえクリアすれば地方の飲食企業でも可能とのことだった。
俄然、やる気が出てきた。HACCPと宇宙食認証は、いずれも高度な衛生管理が求められる。目指すべき方向性が見えてきた。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら