宇宙食に「ウナギの蒲焼き」長野の老舗が挑む理由 過酷な宇宙飛行士の生活に必要な「心の栄養」

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2021年4月、いよいよ自社ブランドうなぎ「シルクうなぎ」を使った試作品づくりがスタートした。形状、サイズ、たれのつけ方など試行錯誤を重ねた。その結果、備長炭で焼き上げたうなぎをマイナス40度で一気に凍らせ、それを2-3㎝四方のキューブ状にして50g分を真空パック、最後は宝食品でレトルト殺菌するという工程に落ち着いた。

シルクうなぎの真空パック(写真:筆者撮影)

最終的な仕様が固まり、JAXAに試作品を提出したのは7月の締め切りギリギリだった。こうして完成した試作品は、適性検査の結果について「これまでにない高評価だった」と関係者から聞いた。

一方で、膨大な書類作成が必要だった。JAXAの宇宙日本食の認証を受けるには、煩雑な申請手続き、様式をクリアしなければならない。

「担当した社員は現場も忙しい中で時間をねん出して頑張ってくれました。作成した書類は400枚以上になりました」(宮澤)

本人、協力企業、そして社員たちの熱意とたゆまぬ努力がついに実を結ぶ日が来た。2021年9月、JAXAの宇宙日本食1次審査に合格したのだ。まずは第一関門突破である。

これまでに試作品を含めてつくった宇宙日本食用かば焼きは150パックになる。宮澤はこの宇宙向けうなぎかば焼きの製品名を「スペースうなぎ」と命名した。

宇宙飛行士に必要な〝心の栄養〟

油井さん、古川さんという2人の宇宙飛行士が宇宙で食べたいといったうなぎのかば焼き。実はもう一人、有名な宇宙飛行士からも熱望されたという。

「以前、ズームで山崎直子さんとお話しする機会があり、こんなお話をされました。〝(宇宙船内で)大きなミッションが終わった時に、パーティーをやろうということで、ロシアの魚の缶詰などで手巻きずしをつくりました。こういう時にうなぎがあったらいいですよね〟とおっしゃったんです。宇宙飛行士の方々にとってうなぎは〝心の栄養〟として期待されているんだなと痛感しました」(宮澤)

スペースうなぎは第一関門を突破したが、これで安心というわけにはいかない。長期保存の適格性をチェックする2次審査をクリアしなければならないのだ。その結果が出るのは1年後の9月ごろとなる。無事クリアして宇宙日本食の認証を取得し、2023年のISSへの搭載を実現できるかどうか。試練の日々はまだまだ続く。

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