「結婚で姓を変更」どれだけ面倒か知っていますか 実体験でわかった選択的夫婦別姓が望まれる事情

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私はこの年になって初めて、「同姓規定による不利益」を体験中だ。家族の事情による法律婚に際し、闘病中の夫ではなく私が姓を変えたからだ。しかし、30〜40代の現役バリバリの人たちがこうした手続きに時間を割くのは難しいかもしれない。

2つ目は、クレジットカードをめぐる事情が示すように、現行法規制との整合性がネックになるなど、政府による民間への協力要請にも限界がある。

制度をめぐる議論

栗田路子氏ら著者7人によるちくま新書『夫婦別姓-家族と多様性の各国事情』(2021年11月10日発行)は、示唆に富む。イギリス、フランス、ドイツ、ベルギー、アメリカ、中国、韓国の事情をそれぞれの国に住む日本人のライターやジャーナリストが紹介している。欧州の国であれ、中国をはじめアジアの国であれ、家父長制のもと男性に隷属する存在だった女性たちが姓を選ぶ権利を得て生活している事情が、さまざまな角度から丁寧に活写されていて面白い。

この本の最後にある座談会で、自民党の「選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」幹事長が「(選択的夫婦別姓に関して)現実的な困りごとを解決する、という極めてプラグマティックな問題だと受け取っています。一方で、反対する方々は、思想的な問題を絡めて意見を言われていることが多い印象を受けています」と述べている。

国会答弁で、法務省は「現在、婚姻後に夫婦のいずれかの氏を選択しなければいけない夫婦同氏姓を採用している国は、我が国以外に存在しない」と答えている。女性が社会的活動の主体となっていない時代の制度を日本だけが維持し続ける必要はあるのだろうか。

ましてや今日、日本がジェンダー・ギャップ指数のランキングで最低レベルを低迷していることを嘆く声が高まっている。ダイバーシティ(多様性)を良しとする考え方は、主流になってきた。結婚や離婚を重ねる人は増え、お互いに社会的キャリアが積み上がってからの熟年婚も珍しくない。

政治家は思想的観念論に偏ることなく、考えてほしい。「婚姻制度の同姓規定を選択制に改める」、これに時間がかかるなら当面の「旧姓の通称使用の拡大策を法的に強化する」ことが女性の活躍や多様性が確保された社会の実現につながることは間違いないのだから。

河野 博子 ジャーナリスト

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こうの ひろこ / Hiroko Kono

早稲田大学政治経済学部卒、アメリカ・コーネル大学で修士号(国際開発論)取得。1979年に読売新聞社に入り、社会部次長、ニューヨーク支局長を経て2005年から編集委員。2018年2月退社。地球環境戦略研究機関シニアフェロー。著書に『アメリカの原理主義』(集英社新書)、『里地里山エネルギー』(中公新書ラクレ)など。2021年4月から大正大学客員教授。

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