「結婚で姓を変更」どれだけ面倒か知っていますか 実体験でわかった選択的夫婦別姓が望まれる事情
業界団体にも聞いてみた。一般社団法人日本クレジット協会(ホームページ上にある正会員、準会員あわせて965社)は「当協会を管轄する経済産業省から政府方針への協力要請は来ておらず、会員企業に対して当協会から文書等の発出はしていない」と話した。
政府の旧姓使用拡大策の理由と限界
社会におけるさまざまな場面で旧姓を使いやすくしよう、と政府が考えた背景には、選択的夫婦別姓制度をめぐる動きがあった。法務省によると、1996年2月に法制審議会が選択的夫婦別姓制度の導入を提言。これを受け、法務省は同年および2010年に改正法案を準備したが、国会に提出できなかった。自民党から強い反対があったとされる。
司法の場では、夫婦同姓を定めた現行制度は違憲との訴訟が提起され、最高裁は2015年と2021年6月の2度にわたり、判断を示した。今年6月、最高裁は改めて「合憲」「国会で議論されるべき」と結論づけたが、全面的にお墨付きを与えた訳ではない。6月24日付の読売新聞によると、裁判官15人のうち、合憲という意見だった11人中3人は、「同姓規定によって不利益を被る女性がさらに増えるなど、事情の変化によっては、現行法が違憲となることもありうる」との補足意見を付けた。4人は違憲との判断だった。
選択的夫婦別姓制度の導入に賛同する人は、2017年の内閣府による世論調査で42.5%と過去最高になった。こうした状況を背景に、政府はまず女性の不利益を緩和しようと、通称としての旧姓使用の拡大策に踏み切ったとみられる。
しかし、拡大策には限界がある。1つには、行政手続きの手順が整ったとはいえ、住民にとって煩雑であり、行政側のコストも増えることがある。
マイナンバーカード、運転免許証、パスポートへの旧姓併記の手続きを行うには、まず、住民票に旧姓を併記してもらう手続きをとる必要がある。住んでいる区市町村の住民記録係へ行き、申請書とともに新しくできた戸籍謄本を提出する。区市町村に婚姻届を出してから、新しい戸籍が作られて戸籍謄本を手にするまで7~10日かかる。
私が足を運んだ区役所では、住民記録係の隣は婚姻届窓口の戸籍係。「婚姻届を出す時に住民票への旧姓併記を求める手続きをとれればよいのではないか」「なぜ二度手間を強いるのか」と窓口の担当者に聞いたところ、「総務省の通達により、それはできない。受益者負担の視点からと理解している」という答えが返ってきた。総務省はこの解釈を否定し、「婚姻届を受理し、新戸籍を作るプロセスを終えないと次の(旧姓併記)手続きに移れない」と説明するのだが、判然としない。
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