日本はまた後塵?米国「夢の超高速計算機」の驚異 中核的な要素技術を最初に開発したのはNEC

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そうした中、IBMはすでにプロセッサ技術では、冒頭で紹介した127量子ビットの「イーグル」の開発に成功し、来年には433量子ビットの「オスプレイ」、翌2023年には1121量子ビットの「コンドル」をリリースする計画だ。

一般に量子コンピューターがスパコンをはじめ既存のコンピューターを圧倒的に凌駕する「量子超越性」を達成するには、最低でも数百万個の量子ビットが必要と見られている。

しかし、たとえ1000量子ビット程度でも、「AI(人工知能)」や「化学」など一部分野では量子コンピューターが(超越性とまではいかないまでも)優越性を示すようになるとの見方もある。

このためIBMのコンドルがリリースされる2023年は、量子コンピューターが実用化に向かうターニング・ポイントになると、同社の上級副社長・研究部門責任者であるダリオ・ジル博士は考えている。

一方、マイクロソフトは2014年ごろから、理論物理学が予言する「マヨラナ粒子」と呼ばれる謎の物質に基づく独自の量子コンピューター開発を進めてきたが、最近この粒子に関する研究論文が撤回されたのを契機に開発は難航している模様だ。

同社は現在、アメリカのIonQやカナダのD-Wave Systemsなどスタートアップ企業が開発した量子コンピューターを、「Azure Quantum」と呼ばれるクラウド・サービスとして産業各界の企業に提供している。

700億円以上を調達したIonQ

このうちIonQは、アメリカのメリーランド大学などで開発された「イオン・トラップ」と呼ばれる独自技術に基づく量子コンピューターの開発を進めている。今年10月には「SPAC」と呼ばれる手法を使ってニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場し、約6億5000万ドル(700億円以上)を調達した。同社の時価総額は約20億ドル(2300億円以上)に達する。

また同じ月に、アメリカの量子スタートアップ企業リゲッティ・コンピューティングもSPACでNYSEへの上場を果たし、約4億3500万ドル(約500億円)を調達した。同社の時価総額は約46億ドル(約5300億円)だ。

最後にアメリカのアマゾンは、IonQやリゲッティ・コンピューティングなどが開発した量子コンピューターを、「Amazon Braket」と呼ばれるクラウド・サービスとして提供している。

さらに今年11月には、カリフォルニア州に「AWS Center for Quantum Computing」と呼ばれる研究所を開設し、ここで量子コンピューターの自主開発にも乗り出した。IBMやグーグルと同じく「超電導量子ビット」方式のマシンを開発していく計画だ。

アメリカでは新旧入り乱れた企業が量子コンピューターの開発を加速しているのに対し、日本企業はその利用に徹するというのでは心もとない。ここからは日本勢の奮起が望まれるところだ。

小林 雅一 KDDI総合研究所リサーチフェロー

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こばやし まさかず / Masakazu Kobayashi

1963年、群馬県生まれ。作家・ジャーナリスト、KDDI総合研究所リサーチフェロー、情報セキュリティ大学院大学客員准教授。東京大学理学部物理学科卒業。同大学院理学系研究科を修了後、東芝、日経BPなどを経てボストン大学に留学、マスコミ論を専攻。帰国後、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所などを経て、現職。近著に「生成AI」(ダイヤモンド社)、「AIと共に働く」(ワニブックスPLUS新書)。

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