左傾化する若者「ジェネレーションレフト」の祖先 東京大学・中野教授に聞くアメリカ史(後編)

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また、コミュニティの自治を重視するという点でも、ニューレフトと最近のリベラル世代は似ています。例えば、BLMは警察暴力への抵抗から始まったのに、いつの間にか「警察を廃止せよ」という主張になっていったことに違和感を持たれた方もいるでしょう。これはアメリカ史の文脈を少し知っておくと理解しやすくなります。

「警察廃止」とは過激に聞こえるかもしれませんが、その意味するところは、「不必要に重武装し、住民に対して攻撃的な警察の予算を大幅にカットし、その分のリソースを地域の学習支援や職業訓練、住宅環境の改善など貧困対策に充てろ。そうやって地域の人たちが参加できるコミュニティを再建すれば犯罪も減って、警察の監視やパトロール、投獄は不要になる」というものです。これはまさに1960年代に試みられた貧困地区のコミュニティ再生運動を彷彿とさせるものがあります。

バーニー・サンダースはニューレフトか?

――とすると、ミレニアル世代などが支持するバーニー・サンダース上院議員はどんな立ち位置になりますか。サンダース氏は、ニューレフト的な人なのでしょうか。

それは難しい質問です。サンダースがニューレフトかというと、確かに彼は1960年代に黒人の公民権運動に深く関わり、現在の政治運動のやり方にもよく似た面があります。しかし、彼の政策論にはむしろニューディールとの近さが顕著にあります。実際、サンダースは、自分はフランクリン・ローズヴェルトの思想を受け継ぐ民主的な社会主義者だという言い方をします。

なかの・こうたろう/東京大学大学院総合文化研究科教授。1967年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程中途退学。博士(文学)。専門はアメリカ近現代史。著書に「20世紀アメリカの夢—世紀転換期から1970年代」「戦争のるつぼ—第一次世界大戦とアメリカニズム」など(撮影・今井康一)

また、社会主義といっても、「政府が町の八百屋を接収したり、生産手段を国有化すべきではない」とも話しており、巷間で言われるような国家社会主義者ではありません。サンダースの主張の柱は、富裕層や大企業への増税、最低賃金の引き上げ、大規模な公的インフラ投資、公立大学の無償化、国民医療皆保険などです。これらはまさにローズヴェルト的な「大きな政府」の政策であり、彼はニューディール左派に近い社会民主主義者だと思います。

――人権やカルチャーの問題を重視した新世代と、元来はニューディール系の老政治家との融合ということでしょうか。ただ、歴史的にはニューディールへのカウンターとして登場したニューレフトですが、その後は割と早く曲がり角を迎えます。

ニューレフトは1960年代末に「暴力を肯定するか否か」という路線をめぐって分裂しました。SDSにおいても、1969年に暴力肯定派が実権を握り、一般市民の支持を得にくくなります。すでにその前年、大統領選挙のあった1968年の8月には、SDSなどのベトナム反戦デモが政権与党・民主党の全国大会があったシカゴで警官隊と衝突するという事件がありました。その一部始終はテレビで放映され、茶の間に血みどろの光景が流されました。キング牧師やロバート・ケネディが相次いで暗殺された影響から、全米の都市で黒人住民による暴動が続発していた頃です。国民は暴力に嫌気がさし、当時の世論調査では56%が警察を支持しました。

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