また、日本のFOIP構想の特徴の1つは包摂性(inclusiveness)であり、日本経済の現実を考慮すれば、完全に中国を排除したサプライチェーンへと再編することは困難だ。いわば、これまで推進してきたFOIP構想の中核に、日米同盟を基礎とした「コア・パートナーシップ」を位置づけるべきだ。
すでに触れたように、自民党の「新国際秩序創造戦略本部」における「経済安全保障戦略」策定に向けた提言においては、日本が主体的に自らの「戦略的自律性」と「戦略的不可欠性」を向上させることの重要性が問題提起されている。
しかしながらこれからの日本の経済安全保障戦略にとって必要なことは、そのような日本独自の努力に加えて、日米同盟を基礎とした2国間での「コア・パートナーシップ」を推進し、また「クアッド」のような価値を共有する諸国とのいわゆる「ミニラテラル」な国際協力を進めていき、さらには「自由で開かれたインド太平洋」構想が示すような、多層的な国際戦略を確立していくことだ。
日本に求められる国際秩序形成の主導
これらを組み合わせることで、日本が主導的な地位に立って経済安全保障をめぐる国際協力の枠組みを形成していくことができる。このような多層的な協力枠組みを対外政策の重要なツールとして、日本は自らのパワーを強めるとともに、ルールに基づいた国際秩序形成を主導していくことが必要だ。
実際に、11月17日には林芳正外相が訪日中のアメリカ通商代表(USTR)、キャサリン・タイ氏と会談を行い、経済安全保障の分野でそれぞれが競争力や強靱性を高め、提携を強化していく姿勢を確認した。新たに立ち上げられた「日米通商協力枠組み」において、よりいっそうの協議や調整が進むことで、まさに日米が「コア」となって、経済安全保障をめぐるインド太平洋における新たな協力枠組みが発展していくであろう。
かつては激しい経済摩擦により相互不信を深めていた日米両国が、むしろ国際協力枠組みの形成へ向けたパートナーシップを深めていくことは重要な変化である。
「経済安全保障」とは、きわめて曖昧であり、その領域が明確ではない捉えどころのない概念である。他方で、日米両国が、防衛協力のみにその協力を限定して、先端技術、AI、エネルギー、気候変動、健康安全保障など、多様な政策領域で十分な調整を行わなければ、日米両国の国際社会での優位性は失われていくかもしれない。
岸田政権における国家安全保障戦略の策定作業が、従来のような防衛省と外務省の調整という水準にとどまることなく、経産省、財務省、厚労省、総務省、環境省、デジタル庁などの数多くの政策領域を包摂すると同時に、これまで論じてきたような多層的な国際協力を日本が主導していくことが重要となるであろう。
(細谷雄一/アジア・パシフィック・イニシアティブ研究主幹、慶應義塾大学法学部教授、ケンブリッジ大学ダウニング・カレッジ訪問研究員)
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