安保条約第2条では、「締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、両国の間の経済的協力を促進する」と書かれている。共産主義勢力と冷戦を戦う中で、日米両国政府は、日本が強靱な経済力を有すると同時に、日米両国の経済的な相互依存を高めることが同盟を強化するうえで資すると考えていたのである。
とはいえ冷戦期には、日米同盟はあまりにも防衛協力へと偏重して、両国の経済安保戦略を調整し整合させることに十分な労力を割いてきたわけではなかった。さらには冷戦終結の時期には日米両国はお互いに、同盟国というよりもむしろ競争相手であり経済的な脅威であるとさえみなされることもあった。
日米同盟における経済協力の重要性に注目した共同研究として、日本のアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)と、アメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)が発表した2018年11月の「日米経済協力強化プロジェクト」の報告書がある。(船橋洋一/マシュー・グッドマン〈プロジェクト・ディレクター〉『日米経済協力強化プロジェクト・日本語縮小版』)
「貿易摩擦を超越したところで高度に一致」
そこでは、共同研究の結果として、「インド太平洋地域におけるアメリカと日本の根本的な戦略的利害と目標は、今日の両国間の貿易摩擦を超越したところで高度に一致している」と論じる。
この報告書が発表されたのは、ドナルド・トランプ氏が大統領のときであり、アメリカの対日貿易赤字に関して繰り返し批判を行っていたことを背景としている。この報告書では、「インド太平洋地域には日米のリーダーシップを求める強い声がある」ということ、さらには「日米は地域への経済関与において、それぞれ比較優位を持つ」ことや、「日米は相互補完性を持つものの、2国間の連携は未発達である」ことが指摘されている。日米安保条約第2条に基づいて、日米2国間で経済安保戦略をよりいっそう調整することの重要性が示唆されている。
日米両国の同盟関係は、単なる貿易不均衡の是正にとどまるものではなく、より広範な経済協力を基礎とするものであるべきだ。その前提として、日米安保条約第2条が、そもそも同盟の基礎として経済的な相互依存関係を想定していることを再確認する必要がある。
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