中国共産党ひっくり返す「動乱」なぜ起きないのか 覇権的な中国に「日本はどう考え対処すべきか」

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橋爪:伝統中国では、こういうのはみんな道教系の宗教反乱のかたちをとる。すると、中央政権は壊れてしまう。だから今、宗教は禁圧されています。法輪功もキリスト教も、警戒の対象です。宗教が駄目だとすると、世俗の思想や哲学の探究者はどうか。これもあてにできない。世俗の思想や哲学は冷静で客観的なものだから、そういうカリスマ的人物は哲学の中からは出てこない。

むしろ、クレージーな政治家のほうがなりやすい。例えば、共産党から習のライバルと目された薄煕来(スキャンダルで失脚)みたいな政治家が出てくる可能性もあるけど、今は出てきにくいでしょう。結論を言えば、しばらく矛盾が深まって、人びとの無意識がかき乱されるまでは、共産党をひっくり返すような動乱は起こりにくいと考えられます。

天安門事件で中国をデカップリングしておくべきだった

大澤:なるほど。いろいろ勉強になりました。この問題に絡んでもう1つ率直にお聞きしたいのは、1989年の6月4日に起きた天安門事件に関連したことです。今振り返ってみれば、天安門事件のほうが、東ヨーロッパの民主革命よりもちょっと早かった。そのおよそ半年後にベルリンの壁が壊れるんです。

しかし中国の天安門事件のほうは、血の弾圧があり、その後、継承されることがなく失敗した。天安門の後に起きた東欧の革命は、今から振り返るとその後大変な苦労が待っていたわけですが、少なくとも体制を変革することには成功したわけです。

ルポライターの安田峰俊さんが、『八九六四 完全版 「天安門事件」から香港デモへ』(角川新書、2021年)という本で、天安門事件に関わった人たちが今どうしているかインタビューしています。何十人も、です。内容は日本の全共闘運動を振り返るような感じです。

あのときは大学生で若気の至りだったとか言いながら、今ではどこかの企業の幹部になっていたりする。まれに今でも民主化を目指している人もいますが、そういう人はたいてい海外にいて、言うことにあまり中身もなく、派閥争いのようなことをしている。そういうのを読むと、天安門事件みたいなことはもう中国で起きないのだなとつくづく思いますね。

新疆ウイグルのようなところには、弾圧され、そして抵抗している人びともいる。しかし多くの一般の漢民族の人たちが、今の中国の方針を受け入れているとすると、どうやって私たちが中国の問題にアプローチしていけばいいのか、どうやって中国の人権侵害に対応したらよいのかわからなくなります。

橋爪:天安門事件のときの西側世界の対応は大変に稚拙なものでしたね。もし中国に関する分析が行き届いていれば、現状の中国がいかに軍事的、経済的に遅れていようが、そのポテンシャルを見て、この方向は大変危険だと判断できたはずです。よって、単なる制裁ではなくて、デカップリングをすると決めて、縁を切るべきだった。

そうすれば、中国のその後の発展はなく、西側世界に適応した指導部ができて発展する以外の選択肢がなくなり、共産主義を捨てた可能性がある。世界にとって、これは非常にコストが低かった。中国の人びとにとってもよかった可能性が高い。

大澤:そうですね。当時は中国に対する認識が甘かったと思います。

橋爪:日本も制裁に後ろ向きで、あれはもうなかったことにしましょうと最初に尻尾を振って、ほかの国も追随した。そうやって、中国の市場で一儲けしてやろうという人間ばかりで、大変に情けなかったと思う。

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