中国共産党ひっくり返す「動乱」なぜ起きないのか 覇権的な中国に「日本はどう考え対処すべきか」

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橋爪:私は、1980年代にソ連が駄目になるだろうと考えていて、どういう形で駄目になるのか、そこに非常に関心を持って見ていたんです。民衆運動とか暴動が起きて、それを体制側が徹底的に弾圧するという悪夢のような攻防を思い描いていたら、そうはならず、ゴルバチョフが出てきた。エリツィンも出てきた。

なぜソ連が静かに崩壊したかといえば、マルクス・レーニン主義の原則でこの世界を捉え、私が生き、人びとを支配していっていいのかと、ロシア共産党の多くの幹部が考えていたからです。つまり、ソ連そのものが、特権階級のシロアリに食い荒らされた木造の建物になっていて、それを支えようという人が誰もいなかったから。今の中国を止めるには、これが一番いいシナリオだと思う。

今の中国共産党が拠って立つイデオロギーを守るために、メディアを独占し、人権を抑圧しているのです。そのことに根拠がないと中国の政治指導部が思えば、中国は変わる。人民が変えるのではなく、中国の政治指導部がそう思うことが大事なんですよ。

中国は変わるのか?

大澤:習近平一強の体制を見ていると、外からのアプローチはなかなか難しいと思うんですが、中国が変わるためのメッセージはどうすれば届けられると思いますか。

橋爪:中国の政治指導部は、メディアの統制はあるけれども、民衆に比べて西側の情報や外部の情報に接するチャンスが多い。そこにきちんとした情報、分析、哲学を潜り込ませて届ける必要があると思う。そういう一貫した知的生産物をつくり出し続けて、それを彼らの目に触れ、手に取れるかたちで用意しておくこと、これがわれわれにできる唯一の方法だと思います。

それをやらずに、中国の人民が間違いに気づいてそのうち武装蜂起するに違いないと、手をこまねいて見ているのは、中国の人民の犠牲を強いるという意味で失礼であるのみならず、知的怠慢ですよ。

大澤:おっしゃるとおりですね。いつものことですが、橋爪さんとお話ししていると、ある種の理想に対する、不屈の強い意志を感じます。

最後に、これから起こりうることを踏まえてお聞きしたいのですが、このままいけば、アメリカと中国の関係、あるいは、自由主義陣営と中国との対立は抜き差しならぬものになるかもしれない。最悪の場合は、中国が台湾に軍事侵攻して、米中の軍事的な衝突になる。

そうなると、日本も存立危機の事態とみなし、集団的自衛権を発動するかたちで戦争に協力することになるかもしれない。客観的には事態はこのように進行するでしょうが、そのとき日本人はこの事態に精神的・内面的にコミットできるだろうか。そう考えると、複雑な気持ちになります。「中国の体制は嫌いだけど戦いたくないみたいな……」そんなことになりそうな予感がして。

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