相次ぐ「電車内凶行」に日本人が再認識すべき教訓 思い出される凄惨な「地下鉄サリン事件」の怖さ

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2018年6月には、神奈川県内を走行中の東海道新幹線のぞみの車内で男が、女性客2人になたで斬りつけ、止めに入った男性客1人を殺害する事件が起きている。「刑務所に入りたかった」というのが動機で、その通り無期懲役判決を受けている。

その3年前の2015年6月には、やはり神奈川県内を走行中ののぞみ車内で71歳の男がガソリンをかぶって火をつけ、焼身自殺をはかった。男は焼死、巻き添えとなった女性客1人も死亡している。

中国では手荷物検査がある

アメリカと対峙する大国となった中国では、地下鉄に乗るにも手荷物検査がある。自動改札を通る前に空港にあるような手荷物検査器に各個人が自分の荷物を通す。

6年前に私が訪れた中国の古都・西安の城壁の下を走る地下鉄で実際に体験している。私が腰をかがめて手荷物を通そうとしたところで、後ろの中国人が先にバッグを検査器に押し込んで“割り込み”をされた記憶だ。

先を急ぐにも、せっかくの自動改札も、いつもここで列ができる。2000年代の初頭に北京で乗った地下鉄では、まだ紙の切符でもぎりが立っていたというのに。

それに中国には、「和諧号」と呼ばれる日本の新幹線にそっくりな高速鉄道がある。外見も内装も日本の東海道新幹線や東北新幹線とそっくりで、うっかりすると日本にいるのかと錯覚するほどだ。違うのはすべてが座席指定の切符に氏名と国民ID番号が印字されていることだった。外国人の場合はパスポートナンバーが記載される。

和諧号の駅舎に入るにも切符とIDカード(パスポート)のチェックがあり、空港並みに手荷物と所持品の検査があった。それから出発のホームに通じるそれぞれの改札があり、その時刻になるまで待たされる。

中国共産党が怖れるのはテロだ。私が地下鉄や高速鉄道を利用したころは、新疆ウイグル自治区でテロが相次いでいた。日本でもテロや放火、刺傷事件を防ぐために徹底するのなら、そこまでやる必要がある。それでもサリンやライターオイルのような液体は見抜けないだろうし、文具としてカッターナイフを持っていても疑われることになる。

手荷物検査は避けたい、自由でいたいというのなら、むしろ電車内は絶対に安全な場所ではない、ということを再認識すべきだ。怖いのなら利用を避ける。だが、日本人はかつての地下鉄サリン事件も乗り越えてきた体験を持つ。その勇気を持っていることも私たちは知っている。

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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