「新幹線テロ対策」安全と利便性のジレンマ 車内防犯と駅の手荷物検査、どちらを選ぶ?
「ふざけんな、こらっ」。不審者役の警察官が発した怒号に、新幹線の客室内が一瞬、静まりかえった。予想を超える大きな声から、訓練の本気度がひしひしと伝わってくる。
JR東海(東海旅客鉄道)は東海道新幹線で大規模な自然災害など不測の事態に備えた訓練を定期的に行っているが、凶器を持った男性を取り押さえる訓練が新たに加わった。8月22日、静岡県三島市の車両基地でその訓練の模様が公開された。
空港の手荷物検査でハイジャックが激減
6月9日、新横浜―小田原間を走行中の「のぞみ265号」で刃物を持った男が突然乗客に切りつけ、男性1人が死亡、女性2人が重傷を負う事件が起きた。車内の刃物トラブルは過去にも起きており、2016年5月16日、静岡県内を走行中の「のぞみ38号」の車内で、巡回中の女性車掌が包丁を所持している男性を発見し、取り押さえる際に軽傷を負う事件が発生した。この事件を契機に、乗務員が携帯しているかばんや座席シートから外した着座部分を使って、相手と距離をとりながら自分の身を防御するという訓練が開始された。客室やデッキ部への防犯カメラ設置も進め、犯罪や不審行為への抑止力として期待された。
しかし、6月に殺傷事件が起き、防犯カメラだけでは事件の防止にはつながらないことが明らかになった。座席シートを盾代わりに使ったことは不審者が振り回す刃物から身を守る対策として効力を発揮したが、やはり一時しのぎにすぎない。
列車内への刃物持ちこみを防ぐには、空港で実施しているような手荷物検査などのセキュリティチェックが効果的だ。世界の航空業界を例にとるとセキュリティチェックの導入が進むにつれ、ハイジャックの件数は減少。1969年に86件も起きたハイジャックは1973年以降10~30件まで低下し、2003年以降は1ケタで推移。2015、2017年は0件だった。2001年のアメリカ同時多発テロを契機に空港でのセキュリティチェックを強化したことも奏功している。だが、JR東海新幹線鉄道事業本部の田中守本部長は、「1日40万人もの人が利用する新幹線でのセキュリティチェックは事実上無理」と、実施には否定的だ。
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