「新幹線テロ対策」安全と利便性のジレンマ 車内防犯と駅の手荷物検査、どちらを選ぶ?

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警察官が乗車していない場合は、緊急停車した駅から警察が乗り込んでくる。だが、タイミング良く駅で停車できるかどうかはわからない。また、今回は列車に乗っていたJR東海の社員が緊急通報装置で第一報を連絡したが、一般の乗客が客室内にある非常用ボタンで乗務員に連絡することもあるだろう。その場合に気をつけないといけないのは、非常用ボタンが押されたら列車が停止してしまうことだ。

ブザーが押されたタイミングによっては、列車は駅間での緊急停車を余儀なくされる。そうすると、警察が列車の停車位置に到着するまでに長い時間を要することにもなりかねない。JR東海は「非常用ボタンと緊急通報装置のどちらを使ってもよい」としているが、むしろ緊急通報装置を優先して使ってもらうよう、乗客への周知を徹底すべきではないだろうか。

そして、何よりも根本的な問題は、どうすれば凶器の車内持ち込みを防ぐことができるかである。6月9日の殺傷事件後、国土交通省は警察庁などと協議を行い、「新幹線において緊急に構ずべき当面の対策」として、鉄道事業者における刃物類の持ちこみ規制を省令等で明文化するとした。ただし、乗客のセキュリティチェックについては対策に盛り込まれていない。「当面の対策」ということは、中長期的にはセキュリティチェックを導入する余地があるのだろうか。導入の是非について幅広い観点から本格的な議論を進めるべきだ。

「最も安全な道」とは何か

中国では高速鉄道どころか地下鉄でも手荷物検査が行われている。たとえば、上海地下鉄の1日平均輸送人員は775万人(2014年)で東京メトロを上回るが、手荷物検査はスムーズに行われ、改札に時間がかかるということはない。一方、欧州における高速鉄道大国のフランスでは、乗車に際し手荷物検査は行っていないが、デパートなど人が多く集まる施設に入る際に手荷物検査が行われる。

1日約40万人が利用する東海道新幹線。安全性と利便性の両立という難しい課題を抱えている(写真:T2/PIXTA)

安全に対する考え方は国によって違う。日本は社会全体の安全に対する意識が諸外国より低いのかもしれない。実際、「安全確保のために手荷物検査を行うと、すぐに乗れるという新幹線の利便性が損なわれる」というJR東海の言い分に賛同する人は少なくないだろう。

しかし、2020年の東京五輪開催を2年後に控えテロ対策の必要性が叫ばれる中、社会全体が多少の利便性を犠牲にしても安全対策の向上を願う時代がくるかもしれない。そのとき、JR東海は安全性と利便性のどちらを重視するのだろうか。「疑わしいときは手落ちなく考えて最も安全と認められるみちを採らなければならない」という安全綱領を持つJR東海が採るべき道は1つしかないはずだ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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