「中国規格」でラオス直結、国際鉄道は成功するか 発展招くか、「人民元経済」に取り込まれるか

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一方、中国ラオス鉄道の開業というタイミングを受け、タイ側の動きも進んでいるようだ。

前述のノンカイ在住の男性によると、最近になって「タイ―ラオス間の国際列車はもともとの気動車列車から貨車・客車の混合列車に種別変更された」という。中国ラオス鉄道との貨物の積み替え拠点となるタナレーン駅までのCTC(列車集中制御装置)化も近いとされ、列車の増発に備えた動きが進んでいることを物語っているようだ。

タイ―ラオス間を走っていたタイ国鉄の気動車(写真:ひで@のんかい)

現地の経済振興についても「ノンカイ駅周辺に国境検査場のための用地がすでに確保されている」といい、「中国からの列車がビエンチャンに乗り入れることで、ノンカイ乗り換えでバンコクと昆明を行き来する時代が来る。そうなるとノンカイにトランジットついでに立ち寄る人も増え、観光地としての地位が上がるのではないか」と、開業特需にも期待が集まっているようだ。

この先東南アジアを目指すのか

中国の公式メディアでは、中国ラオス鉄道への期待がさまざまな文言で語られている。例えば、「中国・ASEAN自由貿易地域の建設がさらに促進される」「中国主導の協力プロジェクトであるこの鉄道の開通で、東南アジアの経済発展に新たな風を吹き込むことができる」といったような内容だ。

大量・高速の輸送手段がなかったラオスにとって、鉄道の開通が同国の経済・社会の発展に寄与することは間違いないだろう。ただ、ラオスがいわゆる「人民元経済」に過度な形で取り込まれることが、ASEAN10カ国が考える未来と合致するのかどうか気になるところだ。

中国が打ち出す「一帯一路」計画には、鉄道をさらに南方へ延伸してタイ、マレーシア、シンガポールを結ぶ考えもある。「中国ラオス鉄道はその第一歩」という論調も多いが、マレーシアの首都クアラルンプールとシンガポールを結ぶ高速鉄道については2020年末、マレーシア政府が財政難を理由として正式に断念した。

コロナ禍の中、「中国初の国際鉄道」が開通しても、持てる機能を全面発揮するまでにはまだ時間がかかりそうだ。だが、中国が東南アジアの「より中枢」へと勢力を伸ばそうとする動きは引き続き注視すべきだろう。

さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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