中国の電気自動車(EV)業界に、車載電池の値上げの波が押し寄せ始めた。EV大手で車載電池の製造・外販も手がける比亜迪(BYD)は10月25日、原材料価格の高騰や電力不足に伴う生産調整などで電池の生産コストが大幅に上昇したとして、顧客に対して価格の引き上げを通知した。
具体的な値上げ幅は、(顧客ごとに異なる)それまでの納入価格をベースに最低でも20%。この新価格を11月1日以降のすべての注文に適用する。今回の通知に関するメディアの照会に対して、BYDは「コメントしない」としている。
中堅クラスの車載電池メーカーのなかには、BYDのような大手に先立って値上げに動いたケースが複数ある。例えば、中子能源(ニュートロン・エナジー)は10月8日に、鵬輝能源(グレート・パワー)は10月13日に、顧客に対してそれぞれ値上げを通知した。理由はいずれも原材料の高騰および供給不足だ。
なお、BYDの車載電池の外販先には、日本のトヨタやアメリカのフォード、中国の国有自動車大手の北京汽車集団などが含まれている。鵬輝能源の主要顧客は、国有自動車最大手の上海汽車集団のグループ企業である上汽通用五菱汽車や、国有自動車大手の長安汽車集団などだ。
「電池メーカーはもはや利益が出ない」
ここに来て電池メーカーが続々と値上げに踏み切り始めた背景には、車載電池業界のサプライチェーンの特殊性がある。電池の正極材の主原料であるリチウム、ニッケルなどの金属や、電解液の原料の化学製品などの価格は、実は2021年に入ってからずっと右肩上がりだった。にもかかわらず、その分のコストアップは電池の価格になかなか転嫁されなかった。
財新記者の取材に応じた電池業界の関係者は、その理由を次のように説明する。車載電池のサプライチェーンのなかでは、エンドユーザーであるEVメーカーの立場が最も強い。また、EVメーカーの1次サプライヤーである電池メーカーの立場は、2次サプライヤーである正極材メーカーに勝る。こうした力関係があるがゆえに、原材料のコストアップは最近まで主に正極材メーカーが被っていたという。
電池メーカーのなかには、最大手の寧德時代新能源科技(CATL)のように、まだ値上げを表明していない企業もある。とはいえ、今やほとんどの電池メーカーにとって、原材料コストの上昇圧力は正極材メーカーに押しつけたり、自社で吸収したりできるレベルを超えてしまった。
「われわれ電池メーカーは、もはやまったく利益が出ない。だからと言って生産を止めることもできない。値上げはやむにやまれぬ決断だ」。取材に応じたある電池メーカーの責任者は、苦しい胸の内をそう語った。
(財新記者:盧羽桐)
※原文の配信は10月26日
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