介護施設が「デジタル化」に取り組んだら起きた事 見える化とカイゼンの徹底で何が変わったのか
そこで注目されているのが、善光会が設立した「スマート介護士資格」制度だ。同資格は、介護に関連するIT技術の学習や、介護ロボットの利用によりどのように現場の効率向上につながるかということにフォーカスした勉強になる。入門から上級まで4段階に分けられており、現場の介護労働者だけではなく、施設の管理者、介護商品開発の担当者などさまざまな介護業界関係者に向けた内容となっている。
善光会では、スマート介護士資格を取得した社員に月7000円の手当を支払うことで、「資格取得→DX介護のレベル向上」を促進しようとしている。外部の受験者数も少しずつ増えているようだ。
機器の移行コスト問題はどうする?
介業務負荷軽減や先進技術の導入について、国は、さまざまな計画や組織で支援をしている。首相官邸「次世代ヘルスケア」、厚生労働省データヘルス改革推進本部の設置、総務省の「医療・介護・健康分野の情報化推進」などを通じて、科学的な介護制度(科学的裏付けに基づく介護)設計から機械の導入・実証実験までサポートを行っている。
ただ、こうした取り組みに対応する中で施設側が最も困惑するのは、導入する機器・ソフトウェアの使い方がメーカーごとに異なることが多く、それぞれの情報をまとめて管理するのは難しいことだと言われている。その結果、現場のスタッフがいちいち個別に確認する作業が生じたり、新たなシステムを導入した場合ゼロから勉強するなど移行コストが高くついたりするため、導入したもののうまく活用できていないケースも少なくない。
善光会は、こうした介護現場の声を拾い、さまざまな介護ロボットやソフトウェアと連携できるプラットフォームを独自に開発した。
このプラットフォームを使えば、すでに利用している介護ロボットやソフトウェアを同じ画面で管理できるほか、統合したデータの分析もできるようになる。善光会によると、2018の効果実証結果では夜間業務は37%効率化ができたそうだ。
例えば、従来は睡眠センサーで測った被介護者の状態と尿量センサーでわかるその人の膀胱に蓄積した尿量の状態を別々に見て、今起こすべきかどうか判断していたが、新たなプラットフォームを導入すれば、2つのデータを同じインターフェースで確認できるようになる。つまり、介護職員は馴染みのある機械を使い続けながら、全体状況を把握しやすくなるというわけだ。
善光会はなぜDX先進介護施設として成長できたのか。上述のように、「ビジョンと戦略の不足」「経営層意識と人材の不足」「老朽システム」といったDX化が進まない理由を克服したからだと言える。オペレーションの先駆者というビジョンを掲げ、カイゼンと人材育成に注力し、そしてプラットフォームの開発まで実現している。DXを検討している日本企業は、善光会の例を参考にする価値があるのではないか。
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