介護施設が「デジタル化」に取り組んだら起きた事 見える化とカイゼンの徹底で何が変わったのか

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従来介護業務は、「経験」「勘」で対応することが多く、介護福祉士やスタッフの経験差・個人差もあるので、いったいどういう業務にどの程度の時間を費やしているか、またはどういうタイミングで業務(例えば、トイレの誘導)を行えばいいかなどの定量的な把握をするのが難しかったようだ。

そこで、特養介護職のスタッフを中心に、毎日の日常業務の時間配分を秒単位で記録して見える化した。その結果、見守・巡回などの間接介助、そして記録などの間接業務が、合計で総勤務時間の3割以上を占めていることがわかった。

これを受け、例えば人の巡回の代わりに24時間モニターセンターを導入、手入力からタブレット入力への変更などをすれば、入居者と直接的に触れ合う直接介助の時間が増え、結果的に介護品質向上につながると考えた。

連絡用端末や夜の巡回も見直し

次に、善光会は先端技術を使い徹底的なカイゼンを実施。例えば、連絡用の端末を、スマートフォンにした場合、ポケットから出してパスコード解錠してアプリを開くプロセスが必要となり、業務の知らせがわかるまで2~3秒がかかる。この2~3秒を節約するため、そのまま耳に入る骨伝導インカムを導入。そしてどういうモニターがいいかを把握するため、フロアごとに違うモニターを設置し、比較の実証実験を行い、それぞれ効果を測定した。

夜間の巡回についても見直しを行った。これまでは過去の経験値にもとづき、トイレの時間を想定して行っていたが、膀胱の拡張を見て尿量が分かるセンサーや、睡眠状態を可視化するセンサーを入居者全員に装着することにより、トイレに行きたくないのに起こしたり、トイレに行くタイミングを逸失してしまい、スタッフの失禁対応の負担が増えたりすることを避けることができるようになった。

こうした見える化、カイゼン、先端技術の導入を実施した結果、現在善光会では人が夜間巡回をしていないのにもかかわらず、オペレーションのレベルは日本全国最高レベルに。特別養護老人について、利用者対職員率は全国平均の2対1に対し、善光会では2.8対1と、約1/3人手を減らしている。

製造業で広く行われている業務の見える化・カイゼンは、さまざまなサービス業にも応用されているが、多くは現場の地道なカイゼン活動で終わってしまう。一方、善光会は現場のカイゼン活動ではなく、トップダウンの、ロボットや先端技術を活用したカイゼンなどにも取り組んでいるのだ。

介護業界の人材不足問題は顕著である。介護労働安定センターが2019年に行った「介護労働実態調査」では、人材不足の慢性化と賃金・賞与が停滞状態にあることが指摘されている。こうした中で期待されるのが、介護業界におけるDXの推進だが、進めるにあたっては、介護労働者のDXへの理解力や対応力が問われる。

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