データで判明「TV揺るがすサブスクの脅威」の本質 約100万台の視聴ログで分析する民放への影響

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スマートテレビを利用するのは2021年4月時点でおおよそ3人に1人に限られる(IXT<現インテージ>調べ)が、さらなる普及と利便性の向上によって、この変化はさらに加速しながら、テレビ受像機全体に広がっていくだろう。

民放は協調して提供する共通プラットフォームのティーバーによって「放送から配信へ」という変化への対応に一定程度は成功しているが、「無料だけ」から「無料、有料混在」という変化に十分対応しきれていない。

高まる有料配信の重要性

無料と有料が混在するメディア環境下において高所得層ほど有料のプラットフォームを選択し、結果として広告が避けられる傾向を本稿では見てきた。この傾向が今後も継続するとすれば、高所得層に対するコンテンツのマネタイズ方法として有料配信の重要性はさらに高まると考えられる。

テレビ受像機での有料配信の視聴というこの新しい領域においてビジネスモデルを確立することは民放の喫緊の課題といえるのではないだろうか。

民放は無料放送という既存ビジネスや放送局間の利害関係にも配慮しながら配信領域でのサービスを提供しなければならず、環境変化への対応には海外の大手プラットフォーマーにはない困難が伴うだろう。

しかし見方を変えれば、無料放送で長く視聴者に親しまれてきたことや複数の放送局が多様な番組を制作していることが配信領域における民放の独自の強みにもなりうることをティーバーの成功が示唆していると考えることもできる。

これまで寡占状態だったテレビ受像機において新たな競合を迎える国内の放送局には、テレビ受像機における有料配信という新しい領域においても海外の大手プラットフォーマーとは異なる独自の価値を提供することが求められているだろう。

山津 貴之 インテージ メディアアナリスト

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やまつ たかゆき / Takayuki Yamatsu

2014年に大学卒業後、インテージへ入社。2017年からスマートテレビ視聴ログを用いた商品である「Media Gauge」の新規事業開発を担当。データベースや調査設計等の基盤構築から、視聴データ分析による広告主や放送局等での活用支援まで幅広い領域に携わる。2021年からインテージグループR&Dセンターおよび在学中の筑波大学大学院ビジネス科学研究群で、スマートテレビでの放送とアプリの視聴実態について研究を開始。研究成果は学術雑誌”Journal of Broadcasting & Electronic Media”に掲載。

 

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