感染急減の日本が油断大敵になってはいけない訳 ワクチン効果は徐々に薄れ、追加接種が不可欠

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追加接種については、さまざまな臨床研究が進んでいる。懸念される副反応については、9月28日、米疾病対策センター(CDC)は、2回目接種後と同程度という研究成果を報告している。

効果については、イスラエルからの研究は前述のとおりだ。他には、9月30日、アメリカ・アリゾナ大学の研究チームが、固形癌で抗がん剤治療中の患者53人を対象に、追加接種の有効性を検証した論文をイギリス『ネイチャー・メディスン』に発表している。この研究によれば、追加接種により抗体価は上昇するが、細胞性免疫の活性化は軽微だった。研究者たちは、それでも免疫学的に有益である可能性が高いという結論を出している。かくのごとく、追加接種の臨床研究は急速に進んでいる。

日本はワクチンが余っているのに

日本はどうだろうか。厚生労働省は、12月から追加接種を始める方針を明かしている。これでは遅すぎる。日本で、高齢者のワクチン接種が本格化したのは5月だ。早い時期にワクチンを打った人は、接種後半年以上が経過する。免疫は低下していると考えていい。今冬、コロナに罹患すれば、重症化あるいは死亡する可能性が高まってしまう。可及的速やかに追加接種を始めたほうがいいだろう。

何がボトルネックか。日本にワクチンが足りない訳ではない。日本経済新聞は10月7日、1面トップに「先進国でワクチン余剰」という記事を掲載した。この記事では、日本の状況について、「11月ごろまでに希望者への接種がほぼ一巡し、その後は在庫が膨らむ見通し」と説明している。さらに、自治体が設置するワクチン接種会場はガラガラだ。その気になれば、いますぐにでも追加接種を始めることができる。

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日本で追加接種が進まないのは、「厚労省の手続きなどの準備が間に合わない(厚労省関係者)」からだ。具体的には薬事承認、審議会での審議などだ。菅義偉・前首相のリーダーシップで、約2カ月のワクチン接種の遅れは挽回した。ところが、追加接種の準備を怠った厚労省の不作為で、また、3カ月以上の遅れができてしまった。昨年末のワクチン導入の失敗と同じことを繰り返したことになる。厚労省の奮起、岸田文雄首相のリーダーシップに期待したい。

上 昌広 医療ガバナンス研究所理事長

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かみ まさひろ / Masahiro Kami

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

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