こうした新たな安全保障環境に向き合い、限られたリソースを転換させるためにも、アメリカ軍のアフガニスタン撤退は不可欠だった。実際、アメリカ軍の中東地域への関与後退は2010年代のオバマ政権からの10年越しの課題だった。アフガニスタンからの撤退はアメリカ国内の超党派的コンセンサスであり、トランプ政権はタリバンとの交渉を通じてアメリカ軍と北大西洋条約機構(NATO)部隊の撤退の土台をつくり、バイデン政権は実際にアメリカ軍撤退を敢行した。9.11後の非対称型脅威に向き合うための大規模な介入の時代は終焉を迎えたといってよいだろう。
トランプ政権の「国家防衛戦略」(2018)は「アメリカの安全保障の最大の課題は国家間の戦略的競争」だと明確に述べている。ただし中国との戦略的競争は、従来の領域におけるアメリカの優位が当然視されない前提から組み立てる必要がある。アメリカは台頭する競争相手国のパワーの基盤を揺るがし、資源を競争劣位な分野に浪費させ、拡張政策のコストを賦課することなどにより長期的競争を勝ち抜くことを企図している。
アメリカの国防省は「統合抑止力」(オースティン国防長官)、統合参謀本部は「統合戦闘コンセプト」を推進し、従来の戦闘領域のみならず、宇宙・サイバー・電磁波領域を組み合わせたマルチ・ドメイン作戦を基礎としながら、「戦力を分散しつつも、攻撃時に打撃力を集中させる」、「仮に指揮系統の一部が破壊されても、モジュール化された他の部隊が自律的に作戦行動を展開する」といった、新しい戦い方を模索している。
アメリカと同盟国が相対的優位を保っている潜水艦を中心とする水中戦や、マルチ・ドメインの戦闘領域を強化することにより、中国に多大なコストを強いる戦略を追求する。オーストラリアに対する原子力潜水艦配備支援、これに基づくアメリカ・イギリス・オーストラリアの安全保障協力(AUKUS) 形成や、日米安全保障協議委員会(2+2)における宇宙・サイバー領域の重要性の協調は、「戦略的競争」の概念から読み解くべき展開ということになる。
アメリカ「インド太平洋シフト」成功の要
2030年代はインド太平洋における「大国間競争・中国との戦略的競争関係」が名実ともに主要な戦略アリーナとなる。アメリカのアフガニスタン撤退は、アメリカの戦略資源をインド太平洋に集中する土台を整える礎石とする必要がある。日米同盟、日米豪印(QUAD)、米英豪(AUKUS)枠組みの強化はこうしたアリーナに対する主要な戦略的枠組みを形成している。
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