「会社で働くしか稼ぐ手段がない」と思う人たちへ 知っておきたい資本家と労働者の関係

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佐藤:プロレタリアートの肯定的な面は、労働者は土地や職業に縛り付けられていない、というところです。労働者はどこで働いていても、何を職業にしても自由です。しかし資本家は、自分の土地、会社などの資本があるので、気軽に動くことができません。シマオ君の会社のオーナーは、シマオ君のように転職を考えられると思いますか?

シマオ:まあ、それは考えられませんよね。自分の会社だし。

佐藤:そういうことです。しかし、一方で否定的な見方は残ります。それが、第二の自由である「労働力以外の生産手段からの自由」です。プロレタリアートは土地、道具、機械などの生産手段を持っていません。自分の労働力だけしかお金を稼ぐ手段がない。自分が働かないと何も生み出せないのです。このことをマルクスは「生産手段からの自由」と表現したのです。

シマオ:確かに。僕は特にこれといったスキルもないし、会社で働くしかお金を稼ぐ手段はないと思います。

それなりに豊かに暮らせる土壌が日本にある

佐藤:シマオ君のように、生産手段を持っていないプロレタリアートは資本家に雇ってもらわなくてはいけません。この自由は、否定的なニュアンスを持っていますし、この否定的な自由によって、資本家は労働者を搾取しやすくなるのです。

シマオ:搾取か……。

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佐藤:その構図はおかしいと思ったマルクスは、プロレタリアートがブルジョワジーを倒し、共産主義へと発展していくという未来を描きました。革命は失敗に終わり、生き残ったのは資本主義の方でした。

シマオ:労働者と資本家の関係は、その後も続いているということですね。

佐藤:はい。ただ、労働以外の稼ぎを特に必要としない、階級のアップを求めない「プロレタリアート」で自分はいいんだと思ってしまえば、それなりに豊かに暮らせる土壌が今の日本にはあるんです。

シマオ:それなりに……か。

佐藤:シマオ君は先程、「搾取」と聞いて、落ち込んでいましたが、この話を聞くまで、 働いていて搾取されていると感じたことはありますか?

シマオ:え? 確かに、言われないと、特に何も思っていませんでした。まあ、働くってこんなものかって、そこまで不満はなく生きてきましたが。

佐藤:それはシマオ君が「自分の労働力を自由に売る自由」を手にしているという証拠です。それは決して悲観的なことではありませんよ。自分が搾取されているということに自覚的で、そこに不満があるならば、資本家になる選択をしてもいいでしょう。プロレタリアートの肯定的な自由を謳歌するのか、否定的な自由に憤り、そこから抜け出すのか。それは個人の自由です。

シマオ:そうか。そう考えると、僕は前者の方が楽かなあ。資本を持つために、頑張って時間を削って、と思うと疲れちゃうタイプだし。自分に合った働き方見つけることで、資本主義社会の中でも自分の幸せは見つけられるんですね。

佐藤 優 作家・元外務省主任分析官

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さとう まさる / Masaru Sato

1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。

2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。2006年に『自壊する帝国』(新潮社)で第5回新潮ドキュメント賞、第38回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『読書の技法』(東洋経済新報社)、『獄中記』(岩波現代文庫)、『人に強くなる極意』(青春新書インテリジェンス)、『いま生きる「資本論」』(新潮社)、『宗教改革の物語』(角川書店)など多数の著書がある。

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