「会社で働くしか稼ぐ手段がない」と思う人たちへ 知っておきたい資本家と労働者の関係

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佐藤:マルクスによれば、労働者というのは「労働力(労働をする能力)」という商品を売って稼ぐしかない人たちのことです。労働者はどれだけ頑張って働いてもお金持ちになることはできません。なぜなら、資本家は労働者をできるだけ安い賃金で働かせようとしますし、そこから上がった利益は自分たちだけのものであって、労働者に分配することはないからです。このことをマルクスは資本家による「搾取」と呼んだのです。

シマオ:それでいえば僕は、プロレタリアート、ということですね。

佐藤:そうです。会社員のほとんどは現代のプロレタリアートです。資本主義の社会では「分業」が発達します。例えば食器の職人はお皿やコップをひたすら作り続けます。その大量の食器は、当たり前ですが自分が使うものじゃないですよね?

シマオ:売って、お金に換えるためです。

佐藤:そう。原始的な社会では物々交換だったけれどもAさんの欲しいものとBさんの欲しいものがいつでも一致するとは限りません。そこで登場したのが、お金だったというわけです。そのことをマルクスは「価値」と呼び、作った食器を使うことで得られる有用性を「使用価値」と呼びました。

シマオ:「価値」と「使用価値」……。

お金で欲望は満たせるがその逆は…

佐藤:そもそも貨幣は商品交換の過程から生まれたものです。しかし、貨幣があれば商品を購入することができるが、商品があってもそれが売れて貨幣になる保障はない。そこにお金の優位性が生まれてしまったのです。

シマオ:お金の優位性?

佐藤:簡単にいえば、お金さえあればどんな欲望でも満たせるけれど、その逆は必ずしもあるわけではない。だから、貨幣の方が交換する物質やサービスよりも強く見えてしまうんです。まるで「お金」自体に何らか、物やサービスを超越する力が宿っているかのように。

シマオ:目の前にある物を超越する力……。それが「物=貨幣」を「神」と同等に感じてしまう理由なんですね。

佐藤:はい。だから人間は貨幣そのものを拝むようになってしまうのです。そこにお金の本質、お金を中心に回っている社会の本質があるのです。お金を否定してはいけないし、お金そのものを価値だと考えてもいけません。大切なのは、その人の価値観をどこに置くのかということに結局は戻るのです。

シマオ:価値観か。それが難しいんですよね。

佐藤:シマオ君は会社員ですよね。会社員として働く時は、自分は資本家ではなく、労働力を売っている労働者なんだという「見極め」と、だから収入には限りがあるんだという「見切り」が大事なんです。

シマオ:「見切り」と「見極め」?

佐藤:自分は労働者なんだという見切りと、資本家にならない限り、莫大な財産を築くことはできないという見極めです。

シマオ:はっきり言われると、なんか、夢がないですね……。

佐藤:それは必ずしもあきらめではないんですよ。 「見切り」と「見極め」の2つを認識した上で、お金で得られないものは何かということを自分で考えることが、人生の豊かさにつながるんです。「見切り」や「見極め」の見境をなくし、お金を盲信した結果、日本ではバブル経済が現れました。

シマオ:あ、何となくテレビで見たことがあります。「バブルの崩壊」って。

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