「廃棄野菜のクレヨン」で一発逆転シングルマザー 2000円する商品が「15万セット販売」の大ヒット
ところが、ほとんど色がつかない。それで余計に、野菜や果物の色をインクにして絵が描けたらかわいい、その文房具が欲しい、自分で作りたいという想いが強くなった。それがいつしか、最初に目をつけた藍のインクと、もともと愛着のあったクレヨンに定まった。孤独だった子どもの頃、クレヨンで数えきれないほど絵を描いてきたし、娘と一緒にクレヨンで絵を描くのが好きで、その親子の時間を愛おしく感じていたのだ。
営業で青森の工業品のフェアなどに顔を出した際、出会った人たちに「野菜の色で絵を描く文房具を作りたい」と話すようにした。
すると、行政の関係者や起業支援の担当者から、「それは面白い! 補助金を活用したら?」とアドバイスを受けた。それまで補助金とは無縁の生活を送っていたので、「補助金ってなんですか?」と尋ねると、「教えてあげるから窓口までおいで」と誘われた。
「うーん、よくわからないけど、行けばいいこともあるかな?」
深く考えず、気軽な気持ちで改めて支援機関を訪ねると、担当者が思いのほか丁寧に説明をしてくれた。話を聞くと、「人件費と製品の開発費を補助する補助金がある」という。
まさか、自分が個人的にやりたいと思っていたことを、行政が支援をしてくれるとは! 驚いた木村さんは、その場で「じゃあ、申請します!」と前のめりにお願いした。
「本当に採択されちゃった」
数カ月後、自宅に県庁から封書が届いていた。一目見た瞬間、それが採否を伝える内容だとわかった。かすかな希望を抱き、ドキドキしながら封書を開くと、申請が採択されたと書かれていた。予想外の結果に目を疑い、最初に浮かんだのは「どうしよう! 本当に採択されちゃった……」という言葉だった。
この補助金は前払いで、それからしばらくして、木村さんの口座に開発資金が振り込まれた。それまで目にしたことのない金額だった。
まず、補助金の取り決めとして2名を雇用する必要があった。仕事の場面以外では他人とのコミュニケーションが苦手で、人を雇うことなど想像したこともなかったから、なにから始めたらいいのかもわからない。補助金の申請を手伝ってくれた起業支援担当者に相談に行くと、ハローワークに求人を出す方法、応募があってからの段取りなど詳しく教えてくれた。
慣れない面接を経て、2名を採用した。木村さんは3人で働くために、古い映画館をリノベーションした施設で、もともとチケットをもぎるための部屋だった3畳一間を、家賃2万8000円で借りた。2013年7月、窓の外には、爽やかな初夏の風が吹き抜けていた。
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