「廃棄野菜のクレヨン」で一発逆転シングルマザー 2000円する商品が「15万セット販売」の大ヒット

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青森と名古屋は遠いので、それまでは電話とメール、試作品は郵送でやり取りしていたのだが、最終段階に入り、名古屋に向かうことになった。木村さんにとってそれは、冒険でもあった。

「ずっとお金がない人生だったので、青森から出る機会もそれまでほぼなくて。それがいきなり名古屋にひとりで行って、クレヨン会社の人たちと会うというのはすごく緊張しましたね。これが初めての県外への出張でした」

その緊張も、すぐに解けた。工場に着くと、水谷さんが温かく迎えてくれて、「一緒に良いものを作ろう」と意気投合。迎えた2013年12月、オフィスに入居してからわずか半年で、おやさいクレヨンが完成した。商品名と2000円という価格は、スタッフと話し合って決めた。

ふとした思いつきから生まれたおやさいクレヨン(筆者撮影)

「20代後半から30代前半ぐらいで、健康や食に対する意識の高いママさんをターゲットに設定していました。その女性たちをイメージすると、野菜クレヨンではなくて、『おやさいクレヨン』のほうがまろやかな印象があるし、ぜんぜん響きが違うよねと。価格は、原価が高いこともあって、最初から贈り物のクレヨンとして設定しました。2000円って贈り物として渡す方にも、もらう方にも負担が少ない金額だと思うんです。これは完全に主婦目線ですね」

木村さんは、2月5日から7日まで開催された「第77回東京インターナショナル・ギフト・ショー春2014」に出展。藍のインクは開発がうまくいかず、商品化を断念することになったが、おやさいクレヨンが旋風を巻き起こす。

階段を駆けのぼるシンデレラ

木村さんは、あいさつを交わすのが1日150人前後と想定して、名刺とカタログを500部ずつ刷って持参した。ところが、2日目の午前中にはそれがすべて人の手に渡ってしまった。

なにが起きたのか? 初日にテレビ東京の報道番組『ワールドビジネスサテライト(WBS)』の取材が入り、それが夜に放送された。その番組を観た人たちが翌日、おやさいクレヨンを一目見ようとブースに殺到したのだ。

そもそも、なぜWBSに取り上げられたのか。もちろん、木村さんからアプローチしたわけではない。青森でWBSは放送されておらず、番組の存在すら知らなかったという。WBSの取材陣は、事前にギフト・ショーの主催者から配布されたリリースを手にしていた。そこには、出展者と商品の名前だけが記されていた。恐らく「おやさいクレヨン」というネーミングに興味を引かれて、取材に来たのだろう。

2日目は、始めから終わりまでずっと人垣が途切れず、その対応でてんてこ舞いだった。会場を出た後、当日プリント対応の印刷ショップに立ち寄り、名刺だけは渡そうと、たくさん刷った。ところが、それも一気になくなることになる。

次ページ最終日、会場に行くと…
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