「廃棄野菜のクレヨン」で一発逆転シングルマザー 2000円する商品が「15万セット販売」の大ヒット
木村さんが受けた補助金は、使用期限があった。それが、採択から9カ月後。それまでに藍のインクとクレヨンを開発しなければならない。さあ、なにから手を付けようか……と悩み、なにか参考になるものはないかと開いたのは、YouTubeだった。
「クレヨン 作り方」と検索すると、いくつか動画が出てくる。それを見ると予想以上にシンプルな作りで、オフィスですぐに実験が始まった。自分たちでロウを溶かし、野菜を刻んでサラダ油と一緒に混ぜ、それを冷凍庫の製氷機で冷やすと、すぐに「クレヨンぽいもの」ができた。
「よし!」と勢い込んだ木村さんは、YouTubeにクレヨンを作る工程をアップしていた、名古屋にある東一文具工業所にいきなり電話をかけた。自動化された機械では製造が難しい素材を使ってクレヨンを手作りしている、1953年創業の老舗だ。現在は父親の後を継いだ兄弟で経営していて、木村さんの電話に出たのは弟で工場長を務める水谷和幸さんだった。
木村さんが、野菜を使ったクレヨンを作りたいと伝えると、水谷さんはしっかりと話を聞いてくれた。それから、電話やメールで製法や色合いについてのやり取りが始まった。
大量の野菜と果物の確保は?
同時に、大量の野菜と果物を確保しなければならない。クレヨンにするには、野菜そのものではなく野菜のパウダーが必要になる。これもどうしたらいいのかわからなかったので、青森県産業技術センターの6次産業化支援窓口に相談。そこで県庁の農林水産部につないでもらい、青森県内で野菜の生産と加工を手掛ける農業組合法人を紹介してもらった。
工場に行くと、畑に案内された。その片隅に、土で汚れた野菜が山積みされている。「あの野菜はなんですか?」と尋ねると、大きさや形が規格外で、出荷できずに捨てられる廃棄野菜だと教えてくれた。
「これだ!」
この捨てられる野菜をクレヨンにしたいと話をすると、廃棄野菜だけでなく、加工時にカットされ、廃棄される部分も大量にあると教えてくれた。例えば、リンゴの皮、収穫時に廃棄されるキャベツの外皮、加工時にカットされるごぼうの皮などなど。「それらを使えばエコだ」と納得した木村さんは、農業組合法人の担当者に「一緒にクレヨンを作りませんか?」と提案。そこで快諾を得て、原料の提供を受けることになった。
原料を確保し、クレヨンを作ってくれる職人も見つけた。クレヨンの巻紙は、自分でデザインすればいい。あとは、両社をつないで商品化するだけだ。試作段階に入り、25色ほど作った。そのなかから色のバランスと発色の具合を見て、現在の10本に絞り込んだ。
当初から、「子どもが口に入れても大丈夫なクレヨン」を目指していて、使用する油もサラダ油やオリーブオイルを試していたところ、東一文具工業所の水谷さんから「ライスワックス(米ぬかの油から採れるロウ)っていうのもあるよ」とアイデアをもらった。お米と野菜。その組み合わせがとても「日本人的」だと感じた木村さんは、米100%のライスワックスを選択した。水谷さんからはさらに、野菜の色を補助する役割として、一般的なクレヨンには使用しない、食用の顔料を使用してはどうかと提案を受け、それも採用した。これにより、クレヨン作りのプロである水谷さんが「こんなに安全にこだわったクレヨンは、世界でもほかにない」と太鼓判を押す商品ができあがった。
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