薄氷の中国恒大集団、政府、個人にも影響が大きい マネックス証券専門役員の大槻奈那氏に聞く

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大槻 奈那(おおつき なな)/マネックス証券専門役員、チーフアナリスト。東京大学文学部卒業。邦銀勤務の後、ロンドン・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。格付け会社スタンダード&プアーズ、UBS証券、メリルリンチ日本証券を経てマネックス証券。著作多数。名古屋商科大学大学院教授、名古屋商科大学大学院教授、二松学舎理事。著作多数。政府委員も多く歴任。

――そうした野放図に拡大した中国恒大集団自体をどうするか、不動産市場をどうするのか、金融システムをどう守るか、ということですが、政府の姿勢をどう見ていますか。

不動産の暴落、それによる金融システム不安が連鎖するシステミックリスクは避けたいが、完全救済はありえない。その舵取りをどうするか。

これまでは売れる物は何でも売りましょうということでやってきた。しかし、創業者で会長の許家印氏が会長を退き、最近財務アドバイザーが決まった模様だ。つまり、国が全面支援ではないが、側面支援しつつ、とりあえず、契約に従って秩序だった返済・リスケ交渉を行って、年末へ向けてじわじわとアメリカのチャプター11のような形、つまり、資産負債を整理し、再建策を探っていく形になるだろう。

EV(電気自動車)会社の中国恒大新能源汽車集団(恒大汽車)は国営企業のシノペック・グループ(中国石油化工集団)と6月に戦略的提携を発表したが、直近で事業と資金調達の一部停止を発表しており、このあたりも国の関与があるのだろう。

不動産会社である恒大そのものは救済しない

昨年、法的破綻して、再建に向かっている中国海航集団などの例がイメージしやすい。ただし、銀行や航空会社などと異なり、会社自体を救済するわけにはいかない。

中国政府は不動産価格の上昇の抑制と不動産会社のリスク拡大を抑えるため、昨年8月、「三道紅線」いわゆる「3つのレッドライン」という不動産会社を対象とした規制を導入した。政府は中国恒大集団が3つの基準を満たしていないことはわかっていたので、一定のシナリオを想定していたと思う。銀行規制も厳しくしていたので、銀行が貸せないこともわかっていた。したがって、中国恒大集団に3レッドラインに反するようなあからさまな支援をすることは難しいだろう。

<3つのレッドライン>①対総資産負債比率(Liability to Asset)を70%以下とする、②ネットの負債資本比率(Net DER)は1倍以下、③現預金短期有利子負債比率(Cash Coverage of ST Debt)を1倍以上とする、という3つの指標。
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