歴史が暴く「インフレなら経済成長」という妄信 インフレ率と経済成長には「複雑な関係」がある

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ケインズ経済学にとって代わるように、今度は新自由主義の時代に突入しました。小さな政府が標榜され、規制緩和が活発に行われ、インフレ率は大きく低下しました。そのあとは、規制緩和、構造改革、技術革新によって、アメリカを中心に、先進国の経済成長率は大きく回復しました。

しかしその後は、新自由主義的政策の結果、設備投資が減り、労働分配率も低下して格差が広がって、経済成長率も下がっています。だからこそ、新自由主義を修正する動きが世界中で起きているのです。私は新自由主義のすべてを否定したりはしませんが、すべてを肯定する新自由主義者でもありません。

インフレへの過度な期待は危うい

今回の記事で私が特に強調したいのは、資本主義の長い歴史の中では、インフレだった時期はかなり短く、経済成長との相関は不安定かつ弱いことです。ですので、2%のインフレ目標に過剰に執着することは危険だと思いますし、インフレにさえなれば日本経済は回復するという期待は、根拠があまりにも薄弱です。

客観的に検証すれば、インフレは健全な政策パッケージの結果であって、経済成長の原因ではありません。研究開発・設備投資・人材投資政策がない中で、インフレだけに期待するのは、ただの「magical thinking theory」(妄想)です。

とはいえ、インフレでなくてもいいということと、デフレを肯定することはイコールではありません。政府は常に、失業率の上昇を意味する「悪いデフレ」にならないように対策を打つべきです。

理想的な経済環境とは、インフレでもデフレでもなく、物価が安定している状態でしょう。

近年のデジタル革命は産業革命に匹敵するものだと仮定すると、インフレ率を下げる圧力が強くかかるので、なかなか物価は上がらない可能性が大いにあります。

だとすると、日本政府はデフレにもインフレにもならないように、物価水準を安定させることを目指すべきです。これには主に金融政策が求められます。

財政出動は何かを実現するための手段です。目的にしてはいけません。インフレという間接的な指標ではなく、経済成長と直接的な因果関係のあるものを財政出動の基準にするべきです。

財政出動は、社会の公平性と経済の持続的な成長につながるものに集中させるべきです。デジタルとグリーン戦略を邁進するよう徹底的に投資をして、民間の投資も呼び込むような政策を検討するのが非常に意義深いことだと思います。

次回は、プライマリーバランス黒字化を凍結する必要性を検証します。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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