歴史が暴く「インフレなら経済成長」という妄信

インフレ率と経済成長には「複雑な関係」がある

歴史を振り返ると、インフレと経済成長の「複雑な関係」が見えてきます(撮影:尾形文繁)
オックスフォード大学で日本学を専攻、ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせたデービッド・アトキンソン氏。
退職後も日本経済の研究を続け、日本を救う数々の提言を行ってきた彼は、このままでは「①人口減少によって年金と医療は崩壊する」「②100万社単位の中小企業が破綻する」という危機意識から、『日本企業の勝算』で日本企業が抱える「問題の本質」を徹底的に分析し、企業規模の拡大、特に中堅企業の育成を提言している。
今回は、「インフレと生産性向上の関係」を解説してもらう。

今回の記事のポイントは、以下のとおりです。

(1)現在は「供給ショック型不況」であり、供給制限が解除されれば需給ギャップの大半は自然に埋まる
(2)財政出動は「需要ショック」による需給ギャップを埋める部分に限定するべき
(3)「インフレになれば経済は成長する」は妄信
(4)インフレと経済成長には複雑な関係があると実証されている
(5)そもそも戦前はデフレのほうが普通で、インフレが常態化したのは戦後から
(6)歴史的に見ると、失業さえ増えなければ緩やかなデフレの下で生産性向上は可能
(7)財政出動は雇用を増やす。生産性はその分だけ上がる
(8)労働参加率が限界に近い日本では、財政出動の効果はあまり期待できない
(9)よって、日本は労働生産性を上げるしかない
(10)労働生産性向上は、財政出動による需要増だけではできない。教育、設備投資、研究開発、イノベーションなども不可欠

今は供給ショック(制限)型不況

さて、本題の「インフレ率と経済成長の関係」の説明に入る前に、おもしろい論文を読みましたのでご紹介しましょう。

アメリカの連銀や経済学者の論文を見ると、今のコロナ不況は主に供給ショック(制限)型不況だとされています。

『日本企業の勝算』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

この場合の「供給ショック」とは、時短営業やイベントの自粛など、規制で供給を制限していることを指します。要するに、お金はあるけれども外食させてもらえない、飛行機が飛んでいない、といことです。潜在的な需要はあるのに、供給がストップされているのです。ちなみに「需要ショック」とは、失業したから外食ができない、感染リスクを恐れて自粛する、といったことを指します。

セントルイス連銀が、アメリカの不況の原因をこの「供給ショック」と「需要ショック」に分ける分析を発表しています。それによると供給ショックの寄与が約4分の3、需要ショックの寄与が約4分の1だそうです。

この分析は、財政出動の議論に大きく関係します。需要ショック型であれば、今の需給ギャップを財政出動で埋めるべきという政策が正当化されます。実際にそう提言している人もいます。

しかし供給ショック型だとすると、供給制限が緩和されるにしたがって、その分の需給ギャップが自然に埋まります。

よって日本ではまず、今の需給ギャップを分析して、何割が供給ショック要因で何割が需要ショック要因なのかを特定する必要があります。財政出動は需要ショックの分だけに限定されるべきです。正確なことは言えませんが、失業率などの数字を見るかぎり、アメリカよりも日本のほうが「供給ショック」の寄与が大きい可能性が高いと考えています。

ちなみに、ハーバード大学などの論文によりますと、供給ショック型不況の場合、金融緩和と日本でいう雇用調整助成金などの政策を実施するべきとあります。

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