歴史が暴く「インフレなら経済成長」という妄信 インフレ率と経済成長には「複雑な関係」がある

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さて、ここから本題に入りましょう。ここしばらく、前から調べたかったインフレとデフレの歴史について勉強していました。

なぜこの件について調べようと思ったかと言うと、「インフレと経済成長には正の相関関係がある」と主張する人が日本には多いからです。その考え方に基づいて、「インフレにならないと、経済は成長しない」と結論づけている人もいます。

経済成長は人口増加要因と生産性向上要因によって構成されています。日本は1990年代から人口が増加していませんので、経済成長は生産性向上に依存しています。そうすると、「インフレにならないと経済は成長しない」と主張する人は、おのずとインフレと生産性向上にも正の相関関係を主張せざるをえなくなります。

まず、インフレと生産性向上の関係を検証する前に、海外の経済学者が出している論文を読んでみました。結論から言うと、インフレは経済成長率にプラスになる場合もあれば、マイナスの影響を与える場合もあり、時には中立の場合もあります。

要するに、インフレと経済成長率の関係は複雑すぎるとされているのです。コンセンサスがあるとすれば、「低いインフレ率は重要な要因だが、それ単体で経済成長を決定づけるほどの要因ではない」くらいです。その理由は、経済を成長させるには、インフレだけではなく、研究開発、設備投資、教育、技術革新、輸出促進、政治の安定なども不可欠だからです。

まとめると、経済成長率とインフレ率には、確かに相関関係があります。しかし統計分析の結果、その因果関係は不安定かつ極めて弱いことが証明されているということです。

インフレと生産性向上の関係に対する「違和感」

次に、日本にとって最も大事なインフレと生産性向上の関係を検証しましょう。

インフレ率と生産性向上率には正の相関関係があると主張する人が根拠として出してくるデータは、戦後の日本のものが多いようです。主に1956年から2021年までのデータが使われます。

しかし、データが少なく、しかも1カ国に限定されているこの単純な分析には、大変な盲点があります。よって、その分析に基づく政策提言も慎重に検証する必要があります。

英語では、こういった理屈を「faulty generalization from cherry picking」と言います。直訳すると「不完全ないいとこ取り」となります。

確かに戦後のデータだけを見ると、インフレ率と生産性向上率には弱い正の相関関係が認められます。これは間違いありません。

問題は、アメリカの歴史を見ると、1949年以降はずっとインフレだということです。イギリスの場合、1934年以降でデフレになったのは2009年だけです。他の国々の状況を見てみても、1934年あたりからはインフレが常態化しています。

戦後ずっとインフレが続いたことは事実ですし、生産性もずっと成長しているので、当然、一定の相関関係が認められます。このような歴史的事実を踏まえると、インフレ率と生産性向上率の間に因果関係があると結論づけたくなるのはよくわかります。

日本では、このインフレ率と生産性向上率の相関関係を根拠に、インフレにならないと生産性は向上せず、日本経済が成長するのは難しいと言われています。逆に、政府が財政出動をしてインフレにすれば、自動的に生産性が向上して、経済が成長すると主張する人までいます。

次ページ「相関関係」があっても「因果関係」があるとはかぎらない
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