「40〜50代社員の切り捨て」を企業が進める理由 50代以上の社員に投資する企業はわずか6%

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この「改正高年齢者雇用安定法」が伝えるメッセージは、これまでの終身雇用や年功序列を前提としたような、個人と会社の主従型の雇用関係からの脱却だ。

首相官邸のホームページには、「人生100年時代を迎え、元気で意欲ある高齢者の方々に、その経験や知恵を社会で発揮していただけるよう」と、この法律の改正に先立って実施された「未来投資会議」の議事録が残っている。

会社での雇用にこだわるのではなく、シニアの力を、社会に広く還元する。大きな価値観のシフトを促しているというわけだ。

とても美しいし、正しい道筋だ。元気なシニアは増え、社会に貢献したい人も多い。しかし、企業はこのメッセージをどう受け止めるだろうか。断言しよう。ノーだ。額面通りに従わないだろう。繰り返しになるが、企業は売り上げ・利益を上げ続け、ステークホルダーの期待に応えることが至上命題だ。できるだけシニア世代に活躍してほしいと本気で思っているとは思えない。そんな時間と金があるならば、若い世代に投資したいのが本音だ。

企業による「中高年社員」切り捨ては加速する

こんなデータからも見て取れる。定年後研究所が2019年に実施した調査によると、「モチベーションアップ、創造性開発、自己発見、自己啓発などに資する研修」を実施していると解答した企業は48.1%にのぼるという。

しかし、そうした研修を「50代以上の社員を対象に実施している」のはわずか6%に過ぎなかった。ほとんどが「男性の新人・若手・幹部候補社員を対象に実施している」(42.8%)のだ。

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企業はシニア社員に期待も投資もしていない。その状況で、国が「70歳まで働かせる環境をつくれ」と企業に丸投げしてきた。ただし「自社で雇用しなくてもいい」と逃げ道もにおわせている。

企業は必ずこう思うだろう。

「早めに中高年社員を追い出そう」

生物学的に心身が衰える自然定年の45歳はいつの時代も変わらない。これが定年55歳だったなら、45歳の社員に対して「会社に貢献してくれたし、あと10年は役に立たなくてもいてもらおう」と考えられた。余裕もあった。

けれど、余裕がなくなった今の日本企業が「70歳まで働かせろだって? あと25年も体力、知力の落ちた社員を置いていられない!」と考えるのは極めて自然なことだ。

企業は意識的に追い出しのために努力をはじめるに違いない。早期退職制度は目に見えて増えるはずだ。

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